「私はジスト・ヴィオレット・アクイラ。
ヴィオル殿に謁見願いたいのだが、お目通りは叶うだろうか?」

王城はすでにヴィオル軍の配下。門番の1人さえも、ヴィオル派の人物である。
その名を聞いた門番はしばし待つように告げると、門の奥へと引っ込んだ。

その様子を遠巻きに見つめる“ジスト”達。
カルセと服を交換し、ジストは今、見た目はまさにカルセのそれだ。
本物のカルセから、使い魔を1匹預かっている。
内部の様子がわかるように、カルセの視界を共有できる細工がなされた小鳥だ。
小鳥が立って出来上がる影に、小さいながらも、カルセの視界が映し出されている。
日増しに彼は召喚術の腕を磨いているようだ。

「まさか本当にこうなるとは。ちょっとワクワクしちゃうのは俺だけ?」

「油断するな、アンバー。カルセの危機が迫れば彼の命が優先だ。
今は見守るより他ないが、ヴィオルの動向には注意する事だ」

やがて門番に連れられ、ジストの姿をしたカルセは城の中へ吸い込まれていった。





――遡る事、数時間前。

「ええと、つまり、ヴィオルって人をひたすら褒めて褒めて褒めちぎって、いい気分にさせてから・・・だよね?」

「色狂いとはいえど一国の主ですよ。そんなにうまくいきますかね?」

「そこでカイヤの薬の出番だ」

ヴィオルを油断させ、痺れ薬を仕込む。
薬が効いた頃合いに参上し、首をいただくという算段である。

「メノウ。また手を汚させてしまうのは本当にすまないと思っている・・・」

「別に。元々ぶっ殺したい奴やし、ちょうどええわ。
それに、それが“傭兵”やさかい。・・・な」

誰と無しに同意を求め、それに頷いたのはアンバーだった。

「ヴィオルは何百、いや何千という人を苦しめている元凶なんでしょ。
目には目を、歯には歯を、ってね」

「私もそう割り切れればいいのかもしれないが・・・」

「いいや、姫さんはそのままでいい。
人殺しに良心の1つも痛まんなんざ、ロクな王にならんからな」

これからの標的を皮肉るように、メノウはそう言う。
彼もまた、狂王に苦しめられた1人だ。

「カルセ、危険を感じたらすぐに伝えてくれ。
すぐにだ、いいな?」

「うん。大丈夫。頑張るよ」

健気に頷いて見せるカルセの手を握る。



その手を開き、見つめていたジストの肩が叩かれる。

「お前が言ったんだぞ、よく見ておけと。
・・・城内に入った」

「お、おお、すまない。
ここまでは順調のようだな」

ジストに扮するカルセが通されたのは、見覚えのある寝室だった。

「マジでどうしようもないね。いきなりベッドに呼ぶかな、普通?」

「それもそうですね。普通は客間・・・とかですよね?
一体どうして、カルセさんはここに・・・」

極めて純朴な疑問に、全員言葉を詰まらせる。

「・・・サフィ、君はあまりこの後の映像を見ない方がいいかもよ・・・」

「な、何故ですか?!」

「情操教育に悪いから・・・かな」

「ナチュラルにボクをスルーしてますよね。
まぁ、どうせピュアじゃないですけど」

口を尖らせて拗ねるカイヤを見、サフィはより一層疑問を深める。








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