「俺は絶対に反対だ!
ジスト、考え直せ!!」

砂漠の常闇、屋内とはいえ照明はテーブルの上の小さな燭台くらいなものだ。
ダークエルフ達は知恵を持ちながらも原始的な生活を営んでいるようである。
そんな中でコーネルは思い切り卓上を拳で叩いたのだった。

「何が反対だというのかね?
これほど効果覿面な作戦もあるまいに」

「懲りない奴め・・・。
お前、“あんな目”に合っておきながら・・・!」

「そこを利用するのだよ。あの色狂いの野蛮な王にはお似合いだ」

「で、でも、ジストさん、いくらなんでも・・・。
今度こそ、本当に、危険な目に合うかもしれません・・・!」

サフィも心配そうに表情を歪める。

「私とてあの恥辱、忘れたわけではない。
然らば、やり返すが道理!! 否、礼儀だ!!
この怨念を晴らすには、誑かしの演技の1つや2つ、むしろ気分がいいというものだ」

「ほんま、無茶言うてくれるなぁ、姫さん・・・。
そう都合よく何度も助けられへんで、こっちは」

「なぁに、ヴィオルの首を捌いて悠々と正門から帰還してやろうじゃないか」

つまり、ジストが囮として懐に潜り込むというのだ。
どんな策かと思って聞いてみれば、あまりにも“賭け”である。

「ねぇ、ジスト。ちょっといいかな」

小さく手を上げたのはカルセだった。

「うむ、なんだね?」

「僕、ジストの身代わりに・・・なれない?」

しん、と静まり返る。



「こりゃまた凄い事言うね、カルセは」

唖然とする空気を断ち切ったのはアンバーのイタズラな笑み。

「ま、まぁ、確かに、カルセドニーさんと姫様って、驚くほど似ていますけど、さすがに・・・」

「いや、待て。それなら俺は許す」

「お、王子?! 正気ですか?!」

くく、と彼は小さく笑った。

「滑稽じゃないか。
あのようなケダモノだ。身代わりで十分すぎる手向けだろう」

「そ、そう。僕は、その、ヴィオルって人、よく知らないけど・・・。
一応、僕、男だから・・・。
ジストが行くより、なんとかできる、と思う」

「う、ううむ・・・」

唸るジストに、そわそわとカルセは落ち着かない。

「演技くらいなら、僕でも、できるから。
ジストの真似をすればいいんでしょう?」

「それはそうとして・・・」

ジストはカルセをじっくり観察する。

「さすがに姫様も悩みますよね、これ。
大丈夫かなぁ」

「あぁ。大丈夫だろうか。
・・・カルセでは、少々可憐すぎないか?」

「か、かれ・・・ん」

仮にも男性だ。多少はその言葉に衝撃も受けるのだろう。
カルセは眉を下げた。

「なぁカルセ。ちと姫さんの真似してみ。
それで判断してみたらえぇんちゃう」

もはや投げ槍にメノウが提案する。彼は無意識に煙草を咥えた。

「わ、わかった。ジストの真似だね、ちょっと待って・・・深呼吸」

すーはー、と呼吸を整え、突如カルセが立ち上がった。

「ふはーっはっは!!
悪名高き狂王め!! この私が制裁してやろう!!」

沈黙。

「・・・姫様、声当てとかしてないですよね?」

「見ての通り、何もしていない、ぞ・・・」

「俺、カルセの事、これから純粋に見られないかも・・・。
隠し芸すぎて反則だよ、ソレ・・・」

何はともあれ、奇怪な作戦は無事狼煙を上げることとなった。








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