ブランディアからほど近く、そこにダークエルフの集落はあった。
石を焼いて造った茶色っぽい壁で、簡易的な立方体の住居を形成している。
どこを見ても褐色肌で長身の者ばかり。
この中でジスト達は妙に浮いた存在になっていた。

ターフェイが集落に入ると、駆け寄ってきた侍女風の女性たちが何やら告げている。
先程男性達にかけたような言葉を連ねると、ついてこいと言わんばかりにターフェイは手で合図する。

「我々は独自の言語を利用する。
この一族で人間の言葉を解するのは私だけだ。
もっとも、私とてそう得意とするところではない。
多少の誤解は目を瞑って欲しい」

道中で彼女はそのように説明した。
カイヤは鞄を漁り、一冊の小さな本を取り出した。

「こんな事もあろうかと、“道行案内人:ダークエルフ語編”を持ってきました。えっへん。
アンリ先生のイチオシ本だからこれさえあれば・・・」

「アンリ? 今、アンリと言ったか?」

ターフェイがくるりとこちらを向く。

「あれ、ご存じなんですか?
アンリ・シュタインって人」

「なるほど。お前達はアンリの知人か。
アンリとは、アレだろう?
この近場の遺跡に視察にくる学者だ。来る度に熱中症でこの集落に運ばれているから、私とて覚えてしまった」

本人の代わりにカイヤが申し訳なさそうな顔をする。

「す、すみません、うちの先生がご迷惑を・・・。
あの人、一度夢中になると倒れるまで切り上げない人だから・・・」

「いや、良い。私が人間の言葉を解するのは、そやつから、介抱の礼にいくらか単語を教わったからだ」

奇妙な縁を語らいつつ、一行はある建物に案内される。
他の施設とは異なり、長屋のように横長に広々と間取りを考えられた建物だ。
入ってみれば、恐らくは王都から運ばれたであろう人間達が呻きながら横たわっていた。

「これは・・・!
すぐに治療します!」

「すごい人数・・・。サフィ、あんま無茶しないでね?
俺も手伝う」

サフィとアンバーは怪我人を見て周り始める。
横たわっているのは重傷の者で、軽傷の者は別の部屋で休んでいた。



「ん? おい、あいつは」

コーネルが指差したところにいた人物。
向こうもこちらに気が付いたらしく、ハッとして駆け寄ってきた。
――かつて王都で門番をしていたゼノイだ。

「お前達は・・・。
そ、それに、あなたは隊長・・・!」

「おう、ゼノイ。お前は無事だったか。
隊長はやめろや。もうそんなんやない」

「い、いえ、俺にとっては、隊長は隊長しかいなくって、あの」

「なんだ、お前とも知り合いだったのか。
まぁいい。私は雑務があるゆえ、仕事場へ戻る。
何かあれば集落の奥の建物へ来い。そこに私はいる」

ターフェイはつかつかと立ち去って行った。
ゼノイは腕を包帯で固められてはいるが、その他は比較的軽症のようだ。

「ダークエルフが人間を匿うなんざ、昔では考えられんな」

「はい。俺も、正直、何か裏があるのではと勘繰ってはいるのですが・・・。
族長のターフェイは、この数年で世代交代した新しい長だと。
若いせいか、人間にもあまり抵抗がない、らしいです。
あと、何か“借り”があるとか、なんとか」

「ふむ。ひとまずは味方と考えるか。
して、ゼノイよ。メノウと知り合いという事は、ティルバ殿と関わりがあると見た」

「ティルバ様、は・・・」

「ま、まさか!」

「あ、ああ、いや、大丈夫。無事、です。
無事では、あるんですけど。怪我をしていて」

「・・・会えるか?」

「はい。
別の部屋で休まれています。
隊長が来たって言えば、きっと、すごい喜ぶと思う・・・です」

彼に連れられ、隣の部屋を訪ねる。







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