婚姻に浮足立っていた街が一変、喪に服している。
未来の教皇とその妃を守り抜いた先代教皇を惜しみ、道行く人々は宮殿に向かって祈りを捧げる。
しんしんと雪が舞い落ち、まだ瓦礫が残る聖都を静かに白く覆っていく。
窓越しにその風景を見つつ、カイヤはペンを走らせていた。
そこにやってきたのは、娘にこっぴどく絞られたメノウだ。
「あれ、終わったんですか? お説教」
「あぁ、もうクタクタや・・・」
彼はソファにドサリと座り、深くため息を吐く。
「無理もないです。父親が危険なマネをしていると知ったら怒りますよ、そりゃ」
「そうは言うてもなぁ」
カイヤは書き上げた手紙を袋に入れた。
封をしたそれを、満足げに窓の明かりに翳す。
「クレイズに手紙か?」
「そうです。先代教皇の崩御なんて大事件を聞いたら、あの人心配すると思って。
ボクが事件に巻き込まれてないか、ってね」
そうだ、と彼女は何かを思い出したように小さく跳ねる。
「メノウさんにまだお礼言ってませんでした。
博士を助けてくれてありがとうございます」
「ついでや、ついで」
ヒラヒラと彼は手を振る。
「ああ、そうそう。そのお礼っていうのもヘンな話ですが。
この手紙にハイネさんの事もちょっと書きました。
ふふっ、もしかしたら特待生入学も夢じゃないかもですよ?」
ふふん、と鼻を鳴らしてカイヤは得意げに笑う。
「博士を救ってくれたお礼、メノウさんが嬉しいものってなんだろうなってボクなりに考えたんです。
博士、アレでも魔法学校では学長と同じくらい偉い人なんです。
その命を救ってもらったんだから、学費の軽減くらいお安い御用でしょってね」
「ぷっ・・・。
はっはっは!! お前えげつないなぁ!!」
仏頂面が常の彼が面白おかしそうに笑う様は珍しい。
カイヤはきょとんとするが、その姿を見せてくれた彼への警戒が薄れ、つられて笑顔になる。
「お見通しですよ。メノウさんだってそのうちボクにそう持ちかける予定だったんでしょう?」
「お前には敵わんな。その通りや」
「ボク、いつか博士みたいに魔法学校で研究活動したいんです。
もしハイネさんが入学してきたら、ボクの助手になってもらうのもいいかも」
「おおきに、カイヤ」
大きな手がカイヤの青い髪をぐりぐりと撫でる。
「その時はまぁ、よろしく頼むわ」
「も、もう・・・。メノウさんまでボクを子供扱いする・・・」
悪い気はしないが、なんとも浮かべる表情に困る彼女だ。
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