夜通しで聖都の修復が行われている。
慌ただしい音を遠くから耳をすまし、クロラはペンを走らせる。
「クロラ様、リシアです」
ノックと共に彼女の声がする。
はい、と返事をすると、声の主はおずおずと部屋に入ってきた。
「お茶を持ってきましたわ。息抜きに」
「・・・そこまで気を遣わずとも」
「貴方はお体が弱いと聞いたので・・・。
いきなりこんな夜遅くまで頑張るなんて、体調を崩してしまいますわ」
「寝ているだけの頃がすでに懐かしいです」
リシアから受け取った茶を飲み、小さくため息を吐いて窓の外を見つめる。
「災難でしたね・・・。
こちらへ来た途端にあんな事件に巻き込まれて」
「覚悟の上です」
「そういえば、まだお礼を言っていませんでした。
いち早く危機に気付いた貴女は命の恩人ですね」
「そんな・・・。
体を張って庇ってくださったのは先代教皇様ですわ」
しゅん、とリシアは落ち込む。
教皇らしからぬあの茶目っ気が忘れられないのだ。
「あぁ、いいですよ、もう。
適当に寛いでお過ごしください。
その堅苦しい言葉使いも、なかなか負担なのでしょう?」
「え」
クロラは薄く微笑んでいる。
「・・・まさか、さっきの弟達との会話、聞いて・・・?」
「貴女ほど肝の据わった妃がいれば、しばらくは安寧でしょうね」
リシアは恥ずかしさのあまり真っ赤になる。
「うう・・・何よ、もう。
全然隙がないんだから・・・」
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