ジスト達は客間へ移動する。
召使いが茶を出し、すぐさま部屋を後にした。
クロラと向き合う形でジストとコーネルが座る。
「して、極秘の話とは?」
雪国由来の茶で喉を潤し、ジストは尋ねる。
「緑の国、青の国。双方の次期国王であるお二方には伝えておかねばならない話です」
クロラは右手を差し出す。
中指に指輪がはまっていた。
思わずジストは自分の右手をぎゅっと握る。
「この指輪はっ・・・!」
「はい。“王家の指輪”です。
これは先程、父から受け継いだものです」
「私の指輪と、同じような・・・」
「えぇ。コーネル殿にもいずれ、ラズワルド殿から受け継がれるでしょう。
これは国王たる象徴の指輪ですから」
「確かに、父上も似たようなものをつけていたが・・・
指輪如きがどうしたというんだ?」
「この世界にある5ヶ国の王家には、それぞれこのような指輪が代々受け継がれています。
それは各国の建国からずっと続いている伝統です。
赤の国のエレミア王家にも、黒の国のロンディネ王家にも、この指輪は存在しているはず。
もっとも、ロンディネ王家はすでに途絶えた血筋ですから、指輪の在り処は不明ですが」
クロラの指輪が部屋の灯りを反射する。
「先祖代々続く、ある種儀式めいた指輪の譲渡。
これが無意味なはずがありません。
先代教皇が知っていたであろう指輪に隠された真実、私はそれを聞く事が叶いませんでした。
ですので、宮殿の古い文献で調べてみたのです」
ごくり、とジストは息を飲む。
「この指輪は案の定、ただのお飾りではありませんでした。
これは“邪なる者”を封じる結界の鍵だとの事です」
「“邪なる者”?」
初めて聞いた言葉に、ジストもコーネルも首を傾げる。
クロラは、テーブルの片隅に置かれていた世界地図を広げる。
「5ヶ国の配置。これは結界の役割を果たしている。
世界の中心の奥深く、そこに“それ”は眠っているらしいです。
詳しい歴史は専門家でないとわからないのですが、“それ”は一度この世界を壊している。
このアルマツィアのデコボコと不可解な地形はその際に出来た傷跡だとも言う。
そして“それ”を鎮めたのは“2人の聖女”と“5つの指輪”。
この5つの指輪というのが、5ヶ国の王家に受け継がれる指輪の正体です」
「まるで夢物語だな・・・」
コーネルがぼやく。
「私も正直半信半疑です。ですがこの指輪の重みは無視できない。
もし5つの指輪のどれか1つでも欠ければ、“邪なる者”は再び目を覚ますだろうと。
はたしてそれが天変地異なのか、人智を超えた何かなのかは不明です」
「・・・待て、クロラよ。
すでに途絶えてしまったロンディネ王家の指輪は・・・」
「もし邪悪な思考の者の手に渡っているとしたら、よくない事が起きるかもしれません」
「それを俺達に知らせて一体どうするという?」
「各国の国王が危うい、という事です」
クロラの冷静な声が空気を張り詰めさせる。
「途絶えてしまったロンディネ王家。
ですが、アメシス王の妃はロンディネの血を引く末娘だったと聞きます。
その子であるジスト殿ならば、指輪の行方を知っているかと思ったのですが」
「は、母上が?!」
「その様子では、王妃の血筋も知り得なかったようですね。
困ったものです」
「・・・ジスト。確か“あいつ”、指輪を奪われたと言っていなかったか?」
彼が言うのはカルセの事だ。
そういえば、名前すら思い出せない彼が唯一持っていた記憶が指輪の話だった。
「クロラ。私はその指輪に心当たりがあるかもしれない」
「本当ですか?」
「指輪を奪って、何かをしようとしている。
どうあがいてもリアンの謀略だとしか思えない」
「リアン、とは?」
「・・・私が止めなければいけない宿敵の名前だ」
ジストは静かに目を閉じる。
「そうと決まれば、ブランディア国王とカレイドヴルフ国王に危機を伝えねばなるまい」
「あぁ、そのブランディアなのですが」
困惑気味にクロラが言う。
「内部紛争で混乱していると聞きました。
国王派と王女派の派閥争いのようです」
「ヴィオル派とティルバ派ということか。
ぐぬぬ、どこもかしこも・・・」
「そうです、ジスト殿。これが要の話なのですが」
クロラは唐突に指輪を外した。
そしてそれを、おもむろにジストへ手渡す。
「は?!」
「貴方が持っていてください。
私1人が殺されるくらいならどうでもいいですが、指輪が奪われるのは困りますので」
「い、いや、待てクロラ、これはさすがに・・・」
「私がもし指輪目当てで殺されたとしたら、この話を聞いてしまった貴方は悔いても悔いきれないでしょう?」
心が見透かされているようだ。
彼には敵わない、とジストは力なく笑った。
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