「ううっ・・・死ぬかと思った・・・死んでるけど・・・」
要塞を脱出した一行は、そこでようやく後ろを振り返る。
強大な魔力の霧に覆われた石の要塞が、ゴロゴロと音を立てて崩れる。
「この凶悪な魔力は一体・・・」
「ホムンクルスは魔力で動く人形だって聞きますから。
さすがに要塞1つを溶かすほどの力があるとは思いませんでしたけど・・・」
「それにしてもジスト、本当にあのゲンジュツってやつ何ともなかったの?
俺、脳ミソ溶けるかと思った」
「うむ・・・。まったく、何も感じなかった」
サフィは首を傾げる。
「ジストさんには幻術の耐性があるのかもしれませんね。
・・・でも幻術って、ありとあらゆる人が抗えない力、ってお話を聞いた事があるのですが・・・。
それに、幻術って使える人がごく限られている、とか・・・」
「レムリアがな。・・・恐らくは使える逸材だ」
「そ、そうだったんですか」
「ははぁ、さすが賢者やなぁ」
父アメシスの遺体に残された跡。
検死をしたクレイズが言っていた言葉が蘇る。
――ひょっとして異世界人でも紛れてたんじゃないの。
この言葉が示すところの意味は、別の世界の存在を知った今ならなんとなく察しが付く。
「幻術はヒトの精神に作用するらしいです。
“あの2人”の様子から察するに、そういう類のちぐはぐな関係だったのでしょうね」
「精神に・・・」
ジストはある事を思いついた。
「カイヤ。幻術とは、誰かの記憶を操作するという事もできるのだろうか?」
「そんなの朝飯前だと思いますよ。
・・・って、まさか」
全員、カルセに目を向ける。
「・・・僕?」
「君の記憶を奪った人物。疑わない方がおかしいというものだな・・・」
ひゅっ、とカルセの背筋が凍る。
「レム、リア・・・さん、が・・・」
すべての元凶に等しい。
ジストは、かつて彼を盲信していた頃の自分が恥ずかしくなった。
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