一行の間を割り込み、“彼”は制御を失くしたフロウを抱きしめる。

「君っ!」

「え、れ・・・?」

床に滴る血の雫。
フロウの魔力に触れ、熱を取り込みすぐに気化する。

「フロウ、いいんだ、もういいんだ。僕はここにいる」

「エレス・・・あれ、なんで・・・」

エレスの白い肌がフロウの魔力で火傷をつくる。

「行ってください、皆さん。振り向かずに、逃げてください。
この子はこの要塞ごと“消える”つもりです。
早く、今ならまだ間に合う。
僕の意識があるうちは・・・!」

「しかし、それでは君が!!」

「いいんです。僕は彼女と共にいます。
・・・それが“忠義”、なのでしょう?」

エレスの様子が先程と違う。
盲目的にフロウの事を口走っていたあの様子とは違い、ごく普通の青年のようだ。

「いつか、どこかで、“セレス”と“セラ”に会ったら、こう伝えてください。
“今まですまなかった。愛している”と」

「・・・わかった」

「姫さん、行くぞ。これ以上ここにおったら要塞と心中や」

ぐっ、と拳を握り、ジストはエレスとフロウに背を向ける。
最後の力を振り絞り、ジスト達は一目散に要塞の出口を目指した。





「エレス、なんで」

「フロウ。僕は君好みの“愛情”になれていたかい?」

「えっ・・・」

エレスは静かに微笑む。

「僕はずっと、恐らくは君の思う“愛情”になっていたんだろう。
正直、君と出会った時から今までの記憶は曖昧だ」

「フロウ、エレスに、何、したの・・・?」

「君は、愛してくれる人が欲しかったんだろう。
たとえそれが“仮初”でも」

「・・・や、そんな、エレス・・・、フロウは・・・」

「大丈夫、恨んでなんかいない。
今の僕が言う君への心は本心だ。
愛しているよ、フロウ。だから、最後まで一緒にいてあげる・・・」

「エレス・・・っ」

「次にまた巡り合えたら・・・、今度はちゃんと、本心のまま一緒にいたいな」

「・・・ごめんなさい。ごめんなさい。ごめん、なさ・・・」

魔力の暴走はもう止まらない。
目の前で、エレスの笑顔が霞んでいく。


――本当のキミと、もっと一緒にいたかった。エレス・・・――





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