執務室にいたのは緑髪で長身の青年、そしていつか見た黒いドレスの少女――フロウ。
「グラース家第一皇子ルベラ殿。間違いないか」
「へえ。どんなコソ泥かと思いきや、アクイラとオリゾンテの連中か。
お前達がここに来たって事は、エレスは死んだな?」
座り込んでいたフロウがすぐさま立ち上がる。
「なに、それ・・・。
エレスを、殺したの・・・?!」
答えも待たず、フロウは激しい怒りに身を任せて全身を震わせる。
「フロウ、落ち着けって。
お前はなかなか上玉だ。お前だけなら、俺の手元に置いて玩具にしてやってもいい。
アルマツィア教皇の妾だぞ? 最高だろ?」
「ぅ、・・・ぅう・・・!」
「まぁそれはクロラを始末した後の話だがな。
おおっと、そういえばオリゾンテの王女がうちに来ていたな。
俺の正妻の器になる上物かは知らんが、かわいがってやってもいいな」
「き、貴様ァ・・・!!」
剣を抜いたコーネルを見た青年――ルベラはさぞ愉快そうに笑い声を上げる。
「この俺に剣を抜いた事がどういう意味か、わからないほど愚か者ではないよな?」
「当たり前だ・・・。我が王家を馬鹿にした罪、償わせてやる・・・!!」
「フロウ、相手してやれ。エレスの仇だぞ?」
「ううううう!!!」
フロウは大粒の涙をこぼしながら静かに歩み寄ってくる。
彼女から溢れてくる計り知れない魔力に、ジスト達は怯む。
「気を付けてください・・・!
この子も“ホムンクルス”みたいです・・・!」
「はっ。あの人形か。
いいだろう、相手してやる!」
勢いよく地面を蹴ったコーネルがフロウに斬りかかる。
我を失くしたように見開いた彼女の瞳が彼の姿を追う。
宝剣が彼女の頬を掠った。
「痛い」
「人形に痛みなどあるものか!
食らえ!!」
畳み掛けるように追撃が入る。
吹き飛んだフロウは、なおも溢れる魔力の制御もせずただ虚ろにこちらを見る。
「どうした、フロウ?
エレスの仇を殺さないのか?」
「え、れ・・・、うぅ・・・」
ユラリ、と彼女は立ち上がる。
『えれす、コロ、した、ユル、せない』
確かにフロウの声だ。だが様子がおかしい。
一行は一斉に激しい頭痛に見舞われた。
彼女の声が頭の中に直接響いてくる。
――ただ1人を除いて。
「なんやこれ・・・!」
「こ、これ、“幻術”です!
この子、ボク達を操る気で・・・!」
「き、君達、一体どうしたというのだ・・・?」
「ジスト、なんともないの?!
ゾンビの俺でも頭イカれそうだってのに!?」
ジストには何も感じられない。
仲間達は両手で頭を抱えて次々に倒れていく。
「おい、フロウ!
俺にまで“それ”かけるんじゃ、ねぇ・・・!」
ルベラまで苦痛そうに顔を歪めている。
「待て、幻術と言ったな、カイヤ?!」
「そ、そうですよ・・・!
や、やばい、体が言う事きかなくなる・・・!」
聞き覚えがある、“幻術”。
確か、父アメシスの遺体から検出されたのも・・・――
「ええい、させるものかっ!!」
ジストは直接フロウを突き飛ばす。
集中力が切れたフロウは魔力を途切れさせた。
「ナイス、ジスト!!」
「ぅぅぅ・・・」
「今だっ!」
槍を構えたアンバーが閃光のようにルベラへ襲い掛かる。
「き、貴様!!」
「借りを返しに来たよ、ルベラ皇子!!」
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