間近で見る要塞はとにかく堅牢だ。
以前イオラが支配していた要塞と似た造りをしているが、クロラから貰った地図を見る限り、内部の構造は少々異なるようだ。
「アルマツィアってすごいですよね。
こんな要塞が国中いろんなところに建ってるんですもん。
カレイドヴルフもこれくらいした方がいいんじゃないですか、王子?」
「馬鹿者。観光業で潤っている国の景観を乱す建物に費用が下りるものか」
「あーあ・・・深追いすんな言われた矢先に敵陣突入かいな・・・。
まぁ、こうなる事くらい予想しとったがな・・・」
「そうボヤいてくれるな!
王都ミストルテインの再建が叶えば、君への報酬だって望むがままだぞ?」
「アルマツィアってお金持ちなの?」
カルセの疑問にジストもコーネルも頷く。
「世界5ヶ国の中でも頂点に位置するのがこのアルマツィアだ。
俺の国とジストの国、たとえ2国でかかってもアルマツィアは落ちないだろう。
軍事力も財力も民衆も、他の国とは格が違う」
「やっぱりそうなんですね。
クロラ皇子、なんか聞いてたイメージと違うっていうか・・・
超大国の王家らしく抜け目ない人でしたし」
「教皇が後釜に推すのもわかるわなぁ。
あいつは敵にまわしたらアカンわ。
あんさんも腰低かったしな?」
「う、煩い・・・。
グラース家を怒らせたら父上にどんな罰を下されるかわからないというだけだ・・・」
そういえば、とジストは歩きながら振り返る。
「アンバー。君は確かルベラに雇われていたと言っていたな。
差し支えなければどんな仕事だったか教えてはくれまいか?」
「暗殺だよー。教皇のね」
軽い物言いすぎて、言葉の理解に一瞬戸惑う。
「な、なにぃ?!
第一皇子が?! 父親の暗殺を傭兵に依頼しただと?!」
「そうそう。
いやまあ失敗しちゃって、俺は捕まって処刑されたわけだけどね?」
「あ、アンバーさん・・・!
それじゃあ、私達が今目指しているルベラ皇子様は、・・・!」
「俺の仇って事になるかな?」
アンバーはニヤニヤ笑っている。
「実際に会った事はないよ。だからあいつは俺の事なんか知りっこない。
所詮、使い捨てられただけさ。
まさかこんな形で復讐できるとはね!」
「傭兵って・・・すごいですね。
ボクちょっとナメてたかもしれない・・・。
メノウさんもそういう・・・なんというか、後ろめたい仕事した事あるんですか?」
「そりゃあな。ま、ペーペーの若い頃の話やけど。
そのテの仕事はコレがたんまりなんよ」
彼は指でコイン型を作る。
徐々に要塞に近づき、その入り口を遠目で確かめる。
「なるほど・・・。厳重な警備のようだ。
死角を狙って入り込むには少々骨が折れそうだな」
「ぐるっと1周見てまわるのも効率悪いですね・・・。
向こうに気付かれちゃったら意味ないし」
どうしたものか、と悩むジスト達を見ていたカルセがトントンと肩を叩く。
「僕がやってみてもいい・・・?」
「カルセが偵察をするというのか?
いや、単独では危な・・・」
「ううん。僕じゃなくて、僕の使い魔」
「ツカイマ?」
カルセはしゃがみ込み、短く何かを詠唱して地面に手をかざす。
積もっている白い雪が静かに動き、むくむくと何かの形を成す。
彼が手でそれをすくい上げると、白い小鳥になっていた。
「しょ、召喚術じゃないですか、それ?!」
カイヤが驚いて食いつく。
「カルセ、き、君、それは・・・」
「この前ジストが言ってくれたでしょう。僕は召喚術が使えるかもって。
グレンさんに頼んだら、やり方を教えてくれたんだ」
「案の定使えた、というわけか・・・。
貴様、本当にアクイラの・・・?」
「どうかな。偶然かもしれないよ」
カルセは立ち上がり、手のひらの上の小鳥を空へ放った。
ピー、と小さく囀り、小鳥は要塞の方へ飛んでいく。
「あんな小鳥で何がわかるんだ?」
「ちょっと待ってね・・・」
彼は目を閉じる。
「右側からまわって、・・・ええと、少し歩くと、倉庫がある。
外からじゃよく見えないけど・・・倉庫の中に地下へ続く階段があるみたい。
倉庫の外に、警備中の人が1人・・・。裏の小窓からなら、倉庫に入れるかも」
「たまげたなぁ・・・。
カルセ、お前千里眼でも持ってるんちゃうか」
「あ・・・ううん。さっきの鳥が見ている風景が僕にわかるだけ。
ジスト、僕・・・役に立てるかな?」
ぷるぷると震えるジストは思わずカルセを抱きしめた。
「素晴らしい!! なんという才能だ!!
よし、カルセ、誘導してくれ。行くぞ!!」
「ありがとう。頑張るね」
一行は木陰に身を隠しつつ要塞に近づく。
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