一瞬変な音がした気がする。

妙な予感が、リシアの胸をざわつかせる。
相変わらず教皇は饒舌に民へ話術を振るっているし、クロラは無関心そうにどこか一点を見つめている。
ねぇ、どうしてこんなに焦ってくるの・・・――?

「あれはなんだ?」

民衆がふと明後日の方向に目をやる。
おや?と民の反応に気が付いた教皇もそちらへ目をやるが、このバルコニーからだと死角になっていて見えない。
それでも、ゴオオ、と低い音が近づいてくる。

この音。まさか。

「教皇様、クロラ様、危ない!!」

リシアが叫んだと同時に、鉄の塊がバルコニーを襲った。





「きゃああああ!!!」

「うわああああ!!!」

混乱する叫び声が轟々と飛び交う。
この騒乱の渦中にいるジスト達も真っ青な顔をしていた。

「な、なんだ、今のは?!」

「砲丸です!!
あの要塞からこっちへ降り注いでいるみたいです!!」

「リシア・・・?!」

呆然とするコーネルの腕をジストが引っ張り、一行は急いで建物の陰へと避難する。



砲丸の雨は容赦なく降り注ぐ。
あの要塞は紛れもなくアルマツィアのものだ。自国を守る為の防衛手段だ。
それがなぜ、牙をむく?
どうして、聖都を襲う――・・・?

「くそっ!!何が起きている?!」

「お、落ち着けあんさん。今こっから出たらボッコボコにされるで!」

「煩い、構うな!! リシアはどうなった?!」

「気持ちはわかるが待つんだ、コーネル!!」

しばらくドカドカと激しい落下音が響き、悲鳴や断末魔が各地から湧く。
一行が身を隠す建物の屋根にも砲丸が落ち、バキバキと轟音を鳴らした。
実際には数分にも及ばないが、息を詰まらせて物陰に潜むジスト達にはとても長い時間に感じられた。
やがて物騒な音は止む。

「・・・止まった、か・・・?」

「リシア!!」

跳ねるように立ち上がったコーネルは建物裏から飛び出す。

「・・・あれ、は・・・」

先程まで高説を紡いでいた教皇が立っていたバルコニーは、足場ごと崩落して瓦礫と化していた。
宮殿のあちこちが、砲丸の勢いに負けてえぐり取られている。
茫然自失となり立ち尽くすコーネルの姿を見かねたメノウが、ジストに囁く。

「なぁ。姫さんの力で宮殿に入れへんか?
あんさん、放っておいたら何しでかすかわからんで」

「そ、そうだな。うむ、行ってみよう。
コーネル! おい、コーネル! しっかりしろ!
宮殿へ向かうぞ!」

「あ、あぁ・・・」

向かいの建物から、ラリマーとフェルドが顔を出す。
2人も無事だったようだ。

「ハイネ、いいか、あの化粧濃いねーちゃんおるやろ?
あいつと一緒にいるんや。
絶対離れたらアカンで!」

「え、えぇっ、おとんどこ行くの?!」

「大丈夫や。大丈夫やから。
リマ、こいつ頼む」

「わかったわ。行ってらっしゃい。
くれぐれも深追いするんじゃないわよ。
イヤなニオイがプンプンするわ」

「あぁ」




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