白い鳩が空へ放たれる。
整列した音楽隊が指揮者の合図で楽器を奏でると、観客から大歓声が上がった。
「皆の者!
今日は、我が息子、クロラ・カルディア・グラースの晴れの舞台によくぞ集まってくれた!」
宮殿のバルコニーから教皇が呼びかける。
教皇に背を押され、一歩後ろに控えていたクロラが渋々前に出てきた。
「此度、青の国カレイドヴルフの正統なる王家、オリゾンテより第一王女であるリシア・メーア・オリゾンテを息子の妻として迎える!
皆、盛大な祝福と共に、グラース家に吹き込む新たなる風となる者を迎え入れてくれぃ!!」
割れんばかりの拍手の中、純白のドレスを纏ったリシアが現れた。
「ほおお!! 美しい!!
なぁ、コーネル?!」
興奮気味にジストは隣のコーネルを小突く。
「さてな・・・」
相変わらず可愛げもなく仏頂面の彼だが、いくらか思うところはあるのだろう。
その瞳は真っ直ぐに姉の姿を見つめていた。
キレイやなぁ、とメノウに抱かれるハイネも楽しげだ。
「そういやクロラ皇子って、引きこもりで表に全然顔を出さない皇子で有名でしたよね?
さすがに今日ばっかりはそうも言ってられないか」
野次馬風に教皇たちを見上げるカイヤはぼやく。
「私は、幼い頃に父上に連れられて訪ねた“5ヶ国会議”でクロラの姿を見て以降、一切顔を合わせていない。
病で臥せっていると聞いてはいたが、大丈夫そうだな?」
「出不精の体の良い言い訳なだけだろう。
教皇は本当にあのクロラを次期教皇にするつもりなのか・・・」
「まぁ、奥さんをもらうんですから、事実上そういう事を意味するんでしょうね。
こうやって盛大にお披露目もしてるし」
「次期教皇様、・・・ですか・・・」
サフィは呟く。
自分を手中にして後継を目論んでいた第二皇子イオラの事でも考えているのだろう。
「・・・白の国の皇子様って、たしかいっぱいいるんだよね?
一番上のお兄さんが教皇になるわけじゃないんだ・・・?」
カルセが誰となく問いかけると、うんうんとメノウが頷く。
「どういうわけか、グラース家は毎度ぎょうさん男の子供が生まれるらしい。
んで、世代交代の度にえげつない兄弟喧嘩が勃発するって話や。
ただ、2番目はワイらでブチのめしてもうたし、4番目はただのガキやし。
・・・そいや1番目の話は全然聞かんなぁ」
「ルベラ皇子か。
グラースの4兄弟で最も皇位継承に貪欲な皇子が彼だと昔噂されていたが・・・。
言われてみれば最近は鳴りを潜めているようだな。
こんなに盛大な祝賀会に名前すら挙がらないとは」
「いいや、たぶん“あいつ”はこれを黙って見過ごすようなタマじゃないよ。
なんだかイヤな予感がする」
珍しくアンバーが難しい顔をしている。
「知っているのか、アンバー?」
「知ってる知ってる。
俺の“雇い主”だったんだ、ルベラ皇子は」
「皇族でありながら傭兵を従えていたというのか・・・?
ふん。まったく、いけ好かない男だな・・・。
まだ、ただの木偶の棒であるクロラの方がマシというものか」
「あれ、あそこ、・・・?」
ふと、ハイネが指を差す。
聖都にほど近い軍事要塞の物見台だ。
「どうしたのだ、ハイネ? 何か見えるのか?」
「気のせい・・・?
なぁ、おとん、今なんか見えへんかった?
ピカッて、あそこ光ったような」
「3、2、1、・・・発射」
ドン!と爆発音。
「ヒュー!!
いい音鳴らしてくれてんじゃん!!」
「目標まで、あと100、・・・50、・・・20・・・」
「終わりだ。教皇、クロラ。
盛大に散れ!! ひゃはははは!!!」
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