「いや~、飲んだ食った!」

ふう、と息を吐いて酒場を出ると、突然銃口が眉間に突き付けられる。

「ずいぶんご機嫌だなぁ、アンバー」

「いやはや、元気そうで何より・・・」

セブンスだ。





「このゾンビ野郎。今までどこほっつき歩いてた」

「どこって、まぁいろいろ・・・。
ていうか君に言われたくないんだけど、それ!」

カチャ、と銃が離れる。

「久しぶり、“ナナ”」

「何生きてんだよ・・・クソッ・・・」

「ごめんごめん、ご期待に沿えてない。俺は死んでるよ。君の言う通り、ゾンビ野郎さ」

セブンスは帽子を目深に被りなおす。

「“あの時”の仲間は皆死んじまった。生き残ったのはあたしだけ。
皆お前を信じて、そして散っていった。
どうしたってあたしだけを生かしたんだ?
やりようによっちゃ、あたしを突き出してお前は逃げる、って選択もあったはずだぜ・・・?」

「俺が君にそんな事すると思う?」

セブンスは俯く。

「あたしは死んだってよかったよ。1人だけ生き残るよりマシだ。
でもお前は迷わずあたしを逃がして捕まった。
・・・あたしはお前1人救い出せない馬鹿だった・・・」

「どうして俺の死に様を見ていたのさ?
醜いなんてもんじゃなかったでしょ?」

よく覚えてないけどね、とアンバーは笑う。

「戒めだ。いつか絶対、あたしは強くなる。強くなって誰かを守るんだって。
お前に生かされた命、誰かの為に使ってやるって・・・」

彼女の拳に力が入る。

「ようやくあたしの名前は有名になってきた。
でもそこに“お前”の噂が立って、もしかしたらここに来るんじゃないかって、あたしは戻ってきたんだ。
お前は昔から、祭りで飲んで騒いで女と遊ぶのが好きな奴だったし」

「あ~・・・そりゃどうも・・・。
結構ヒドい言い様だなそれ」

「別に、お前が今誰といようがどうでもいいけどさ・・・。
一言、言いたかったんだよ」

――あの時、あたしを助けてくれてありがとう。

セブンスはますます帽子を深く被って顔を隠す。

「お前、どうせまたヘラヘラと女追いかけてるんだろ?
1人くらい、ちょっと真面目に付き合ってみろよ。
あたしはもう・・・いいから」

「ナナ」

くるりと彼女は背を向ける。

「今度こそ“サヨナラ”だ。
あたしの事は忘れろ。あたしもお前を忘れる」

「そうする」

アンバーは彼女の背に呼びかける。

「ナナ。どうか幸せに」

「ふん・・・。ゾンビに幸せ祈られたらヘンな厄が降ってきそうだからやめろ」

つかつかと彼女は夜道を行く。



「俺は“今”を生きる事にする。
守らなきゃいけない子がいるから・・・」

故郷の空を見上げたのはいつ以来だろう。
彼はしばらく月明かりを見つめていた。




-203-


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