「嫌だ! 絶対に!!」

アンバーは子供の様に喚く。

「フェルドは君に会いたがっていたぞ。
どうしてそこまで毛嫌いする?」

「俺はあいつが憎いんだ!」

彼は自らの胸に下がる十字架の首飾りを握りしめる。





一悶着の後に宿をとった一行だが、戻ってきたアンバーの様子がおかしいと全員訝しんでいた。
事情を知っていそうなメノウに尋ねようとするが、彼も詳しい事は知らないと首を横に振るだけ。
仕方なくジストが閉じこもるアンバーの説得に向かうが、彼は随分と荒れている。
普段は常に笑顔を貼りつけたような男である彼のその姿は、若干の恐怖心さえあおる。

「フェルドは騎士だったはずなんだ」

アンバーは口を尖らせる。

「俺や母さんを捨てて騎士になった癖に、なに傭兵に格落ちしちゃってんの?
マジで意味がわからない。
俺が、あいつのせいで、どんだけ苦労したか!
命まで捨てるハメになったっていうのに・・・!!」

ギギギ、と白い歯を覗かせる。

「フェルドは騎士だったのか・・・」

「そう。アルマツィアの教皇に仕える騎士。
貧民だった実家を捨てて、自分だけ騎士になっていい気分を味わってた下衆だよ!」

フェルドが地位に溺れるような男には見えない。
どちらかというと真面目そうな、それでいて大らかそうな人柄に思えていたが・・・――

「母さんの死に際にも帰ってこなかった男なんだ。
もちろん、“処刑”される俺の事も助けてはくれなかった。
アホくさい。何が教皇だよ。何が女神だよ。
誰も俺を助けてくれなかった・・・」

彼は俯いて肩を震わせる。

「・・・ごめんね、ジスト。当たり散らすような真似して。
ジストには何も関係ないのに」

「いや、仲間の君の事なのだから無関係なわけがない。
少しは落ち着いたか?」

「うん。大丈夫・・・」

「それじゃあ、これを受け取って欲しい」

ジストが差し出したのは、古ぼけた手紙だった。
一部が焦げている。

「これ・・・」

「フェルドに、君へ見せるよう言われて受け取った。
彼はずっとこれを大事に持っていたそうだ」

「・・・俺があいつに送った手紙だ。
母さんが死にそうだから帰ってきてくれ、って懇願した手紙・・・。
それを、あいつ・・・!」

「フェルドは君に話したい事がある、と。
聞けば、君はフェルドに何度か手紙を送っていたそうだな?」

「うん。
でも一度も返事はくれなかった」

「・・・それが、本当に、欲に溺れて君達を蔑にした証拠になるか?」

「そう思うだけの材料は十分じゃないか。
今更謝罪なんて聞きたくない。
母さんは死んだし、俺も死んだんだから」

「真実を確かめようとは思わないのか?
君にはその勇気がないのか?」

アンバーはゆっくりと顔を上げる。
金色の髪の隙間から琥珀色の瞳が覗いた。

「“夕刻に酒場で待っている”。
・・・フェルドからの伝言は伝えたぞ。
この先どうするかは君が選べ。
私が何かを言えるのは、ここまでだ」

アンバーは静かに立ち上がった。




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