そこまで歩かないうちに彼の姿を発見した。
人混みを外れて木陰に潜んでいる。

「なんだ、買い物ではなかったのか、アンバー?」

「うわあ!!
び、びっくりした、ジストか。サフィも」

「どうされたのですか・・・?
さっきまで、とても楽しそうに・・・」

「どうもこうも!!
まさかここに“ナナ”がいるなんて思ってなかったんだよ・・・!」

アンバーはいつにも増して青い顔をしている。

「ほほう、君はセブンスと知り合いだったのか。
せっかくの機会だと言うのに、何故再会を喜ばないのだ?
何か訳ありにも見えるが・・・」

「ナナは、その・・・」

アンバーは参ったように頭を掻く。

「“元カノ”。俺が生きて、傭兵をしていた頃の」

「ええええ?!」

噴き出すのを堪えるジストの傍らでサフィが声を上げる。

「あ、アンバーさんの、恋人・・・」

「あぁ、あー・・・昔! 昔の話だよ」

「意外だな。アンバー、君の趣味はサフィのような可憐な乙女だと思っていた」

「やめてよ恥ずかしい・・・」

今度は赤面を隠すように彼は両手で顔を覆う。
最も、血流のない彼の顔色は冷める以外にはないのだが。

「そういう事なら頷けるか。
君の今際は詳しく知らないが、彼女と会うには都合が悪いのか?」

「めちゃくちゃ悪い。
だって俺が死んだ原因の仕事に一緒に行ってた子だもん。
でもよかった・・・。元気そうで」

「ふむ・・・難しいところだな。
・・・サフィ? 大丈夫か、サフィ?」

硬直したままだったサフィはハッとして意味もなくわたわたと手を動かす。

「そ、その、ごめんなさい・・・。
私、アンバーさんを・・・」

「え?!
いやいや、サフィは別に悪くないよ。
例えゾンビでも、俺は今が楽しいからね♪」

よしよし、と彼は彼女の銀髪を撫でる。

「けど、まぁ・・・。
ここで会ったのも何かの因縁か。
少し冷静になったら、彼女と会ってみる事にする。
挨拶ぐらいはしておきたいしね。
・・・銃で頭に風穴開くかもしれないけど・・・」

「・・・アンバー?!」

突然男性の声に呼ばれ、アンバーはギャッと悲鳴を上げる。
声の主は、アンバーと同じ金髪の青年だった。





「待って、待って、冷静どころじゃないよ!
なんであんたがここにいるんだよ!!」

「いや、待てよ、ちょっと待て、お前・・・生きて・・・?!」

「君はフェルドか!」

以前アルマツィアで逃げ回り匿ってもらったあの日に出会った青年だ。


――“あいつ”の名前は出すなよ。


メノウに忠告されていたが、偶然にも本人同士が出会ってしまった。
フェルドは思わずアンバーの両肩をガッシリと掴む。

「お前、生きていたのか!!
よかった、よかった・・・!!」

「は、放してくれよっ!!
あんたの弟だった俺は“死んだ”よ!!」

見た事ないほどにアンバーは敵意を示していた。
フェルドは琥珀色の瞳を丸くする。

「空似だっていうのか・・・?
でもお前、俺を知って・・・」

「あぁそうだよ!
憎いほど知ってるよ、あんたの事は!!」

肩で息をするアンバーは、くるりと背を向け歩き出す。

「サフィ、ジスト、行こう。
俺はその人と話したくない」

「あ、あの、アンバーさ・・・」

あたふたと彼とフェルドを交互に見るサフィだが、やがて頭を下げてからアンバーを追いかけて行った。

「ジスト、これは一体、どういう事なんだ・・・?」

「すまない。私の口からは・・・説明するのは難しい」

フェルドは小さくなっていくアンバーの背を見つめる。

「なぁジスト、1つ頼みたい。
少しだけでいい・・・。あいつと話せる時間を作る手助けをしてくれないか?
あいつは俺を死ぬほど恨んで・・・いや、“死んでも”恨んでいるのかもしれないが・・・
俺は、あいつとちゃんと話したい」

ジストは黙って頷いた。




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