見渡す限り真っ白な国。
海辺で育った彼女には新鮮な景色だ。
あぁそれでも。
――この気持ちは雪雲のように晴れない。



「リシア様、失礼いたします」

やってきたのはカレイドヴルフ騎士団の団長。
王女リシアとは幼い頃からの顔馴染みで、彼女にとって特別な存在でもあった。

「スタグレー。来てくれたのね」

「当然です! なんせリシア様のもっとも美しく輝ける時ですから!」

「そうね、ありがとう」

リシアはお転婆で知られた活発な姫だった。
そんな彼女が今、嫁ぐ日を前に、少しずつアルマツィアの空気を取り込むべく整然としている。

「奥さんは元気?」

「えぇ!そりゃあもう!
リシア様のお姿を見たいと散々ゴネておりましたとも。
まあ、家内もメイドとしての仕事がありますから。念入りに王城を掃除するよう命じておきました!」

「それはありがたいわね」

スタグレーは改めて姿勢を正す。

「リシア様。やはり今一度お礼をお伝えしたく。
・・・私と家内の仲を取り持ってくださった御恩、一生忘れません。
例え貴女がアルマツィアに嫁いでいかれたとしても、私は貴女への忠誠を死ぬまで貫きます」

「・・・ありがとう」

リシアはただ微笑むしかできない。
スタグレーは知らないのだ。リシアがどんなに彼を想い、どんな気持ちで彼の恋を後押ししたのかを。

「もうすぐ私はグラース家の人間になるわ。
スタグレー、最後のお願いを聞いて」

「何なりと!」

リシアは小さく唇を噛む。

「どうか、いつまでも幸せな家庭を築いて。
そして・・・弟を・・・コーネルの事を、お願い」

「御意・・・!
必ずや、その命、果たしてみせます・・・!」

深々と頭を垂れたスタグレーは、部下に呼ばれて名残惜しそうに部屋を後にする。



「馬鹿ね、私って」

溢れる涙が止まらない。

「もうわかっているはずなのに。
スタグレーはもう・・・私を選んではくれない。救ってはくれないのよ・・・。
私はただ、死ぬまで、オリゾンテとグラースの間に立つだけの駒として生きるんだから・・・」

助けて。

誰かこの声を聞いて。

「あぁ、コーネル・・・。最後に会いたい・・・」




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