ジストはただ無言で考え込んでいた。
クレイズから聞いた話では、今のレムリアはこの世界の住人を片っ端から掃討しようとしている、という事になる。
窓の外を見やれば、祭り気分で楽しそうに行き交う住人の姿が見える。
彼らの命をすべて犠牲にし、それをも厭わず、そして自分の世界の住人をこの地へ招こうというのか。
あれほど慕い、信頼し、憧れ、追いかけていた“彼”という偶像が音を立てて崩れていく。
彼は英雄にでもなろうというのか?
数多の犠牲に心1つ動かぬ英雄がどこにいるというのか。
「そんなところで頭を抱えて何をしている?」
コーネルの声がした。
「あ、あぁ、少し考え事をな・・・」
そう言いながら顔を上げると、少々険しい面持ちの彼が立っている。
幼馴染みの表情だ。読み取れないわけがない。
「君、具合でも悪いのか?」
「少し頭痛がするだけだ・・・」
風邪でもひいたのだろう、と彼はソファに横たわる。
だがジストは嫌な予感がしてたまらなかった。
「頭痛、以外はなんともないのか?」
「なんだ、急に。
・・・少し怠い。こんな雪国で風邪1つ引かない方が馬鹿だというものだ」
「本当に、この国へ来てからの事か?」
「どういう意味だ?」
「もっと前から・・・身体のどこかがおかしい、とか・・・」
「別に」
言いかけて、そういえば、と彼は続ける。
「ちょうどお前と合流した日も酷い頭痛でな。
それから度々、熱もないのに頭痛がする。
お前達の頓狂ぶりに惑わされているのかもしれないな」
「いや、その・・・待ってくれ」
まさかとは思うが。
ジストの嫌な予感は確信に変わっていく。
「アクロが原因かもしれない」
「は? あの男が? 何故?」
世界は同一を認めない。“排除”する。
クレイズが言う事が本当なら、コーネルは・・・――
「話せば長いのだ・・・。
少し、聞いてくれるか」
コーネルは怪訝そうに首を傾げるが、素直に頷いた。
「・・・つまり俺は、この世界から消されるという事か?」
端的に言ってしまえばそういう事になる。
「君が消えると決まったわけじゃない。
君かアクロか、どちらかが消える・・・。
だがアクロは何度も世界を渡っている男だ。そんな事は重々承知だろう。
早めに彼を何とかしないと、コーネル、君が消えてしまう」
く、と彼は息を漏らす。
おのれ、と悪態をつく前触れ・・・――
「くはははっ!!」
ジストは飛び上がった。
「コーネル、君、笑っ・・・」
「これが笑わずにいられるか!
俺かあいつか、生き残るのはどちらかだというんだろう?
面白い。面白いじゃないか。
あいつを殺す大義名分だろう!」
「しかし!」
「なんだ、あの男に情でも湧いたのか?
まぁいい。お前がアクロと俺、どちらの存在を願っていようが、俺には関係がない。
俺はそんな奇妙な理由でポックリ死ぬなど認めない。生き残るのは俺だ」
くくく、と彼はなおも笑い続ける。
「ま、待ってくれ。
殺す以外にも何か解決方法が・・・」
「あの賢者がそう言ったんだろう?
俺はその話に乗った。あの男には私怨が積もり積もっていたところだ。一度決着をつけないと気が済まない。
お前が止めても俺は諦めないからな。今のうちにあの男との別れを済ませておけ」
コーネルは立ち上がる。
「どこへ行くのだ?」
「何もしない時間が惜しい。俺は剣術を磨いてくる」
彼はいつになくやる気に満ちた風に部屋を出て行ってしまった。
あぁ、やってしまった。
彼は昔から、一度言い出したら聞かない男だ・・・――
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