「久方ぶりに凶悪な魔力を感じたと思えばこれじゃ。
ガーネット、貴様はアホか。あの童を怒らせたらどうなるかよく知っておるじゃろ」

「仕方ねーだろ! 何が原因でヒスるのかアタシだってわかんないってのに。
・・・で、エマ、テメェどういうつもりだ?」

「フン! 妾とてこの機関の“えーじぇんと”じゃ!
見縊るでない!!」

エマイユは水晶玉を片手に地下への階段を迷わず降りていく。

「おい、まさか・・・――」

「“赤豹”を探しているのじゃろ? それくらいお見通しじゃわい。
ついでに、そやつの牢も当ててやろうぞ。・・・ハッ!!」

水晶が白く光る。
彼女が一体何をしているのかはよくわからないが、本人にはその水晶に何かが映って見えるらしい。

「ここじゃな」

「よしキタァ!!! オルァ!!!」

ガーネットが扉を蹴破る。
しかしそこは空室だった。

「・・・おりょ?」

「ファック!!! こういう時くらい当てろよボケ!!!」

「むむ? いや、確かにここから気配が・・・」

「あぁ、そこにいた人ですか。
さっき俺が連れていっちゃいました。所長のところに」

突然後ろから男の声がして飛び上がる。
振り返ると、ゴーグルをつけた気さくそうな青年が立っている。

「あ! にいちゃん確か・・・!」

「やあハイネちゃん。脱走しちゃったのかい?
だめじゃないか、ちゃんとおとなしくしてないと・・・」

彼が握る拳には鋭利な棘が無数についている。

「ハイネちゃんがボコボコになっちゃったら、お父さん、悲しんじゃうよ。
・・・あるいは・・・俺を殺しに来るかもね!」

あはははは、と彼は突然笑い出した。

「てんめぇ、オーリス!!
アタシの計画をクラッシュしやがって!!」

「何を言っているんです、ガーネット?
君が今している事は我々に対する“裏切り”。
この機関を裏切った者がどういう末路を辿るか、君だって知らないわけがないはずだ」

ゴーグルの青年――オーリスは柔和に微笑みながら拳を突きつけてくる。

「シャラップ!!
ハナっからアタシはこんなクソみてぇな場所に忠誠なんてモンは持ってねぇ!!
今となっちゃ用済みなんだよォ!!」

漆黒の刃が宙を斬る。
ガーネットはその禍々しい大剣をオーリスに向ける。

「おい、エマ!!
そいつら連れてけ!! ここはアタシが食い止める!!」

「ハァ?!
妾に何をさせる気――」

「一人前って思われたきゃ、さっさと行け!!
いいか、“赤豹”!! それから“賢者”だ!! 探せ!!」

「なっ・・・!」

躊躇うエマイユの隙を突いてオーリスがこちらへ割り込もうとする。

「すんなり行かせるわけがないじゃないですか」

「うるせぇ!!
テメェの相手はアタシだゴーグル野郎!!」

「まったく!!
仕方ない、乗りかかった船じゃ!!
行くぞ、己ら!!」

「ガーネット!!」

ジストが名を呼ぶ。

「君は、どこかで・・・」

「妹が・・・世話になってるぜ!!
あばよっ!! 行けっ!!」

その背をガーネットが蹴り押す。
ジストが振り返った時、扉は閉まった。


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