「なぁ、フェナちゃん。
きみ、ずっとここにおるん?」
「そぅ」
「ひょっとして病気なん?」
「ぅん」
病棟の1室で、ハイネはいかにも病弱そうな少女と共にいた。
その少女以外には誰もいない。個室のようだ。
簡素なベッドの傍らには点滴が置かれ、そこから伸びる管が、小枝のように細い少女の腕に繋がっている。
床に置いてある箱には積木やパズルといった玩具が雑多に入れられているが、当の本人はクレヨンを片手に画用紙を彩っていた。
「絵描くの好きなんやねぇ」
「ぅん、すき」
「・・・なんていうか、ドクソーテキやね・・・」
ハイネは目の前の少女――フェナが黙々と動かす手先を見つめる。
「ハイネ・・・?は、なにが・・・すき?」
「え、うちが好きな遊び?
うーん・・・」
腕を組んで考えるが、いまいちピンとこない。
「うち、家だとずっと勉強してんねん。
ほら、青の国の学校、有名やろ?
いつかゼッタイ、そこ行くんや!!」
「ガッコゥ・・・」
ふと、クレヨンが止まる。
「ガッコゥ・・・って、なに?」
「な、なに、て・・・。
勉強する・・・とこ?
コドモもオトナもいっぱい集まって、一緒に勉強するんや!・・・たぶん」
「すごぃ」
フェナの空虚な瞳がどことなくキラキラ輝く。
「ぉともだち・・・いっぱぃ・・・」
「せやな! きっとステキなとこや思うで!
あ、フェナちゃんも勉強せぇへん?
一緒に青の国の学校行こうや!!」
「・・・んーん、・・・フェナ、おそとでられないの」
「えっ・・・」
フェナは天上を見上げる。
つられてハイネも見上げるが、そういえばこの部屋には窓が1つもない。
「ビョーキ・・・。おそとでると、たいへん・・・なの。
だから・・・なおらなきゃ、おそといけなぃ」
「そ、そんな・・・
・・・そか、そうやったんね・・・」
再びクレヨンが動く。
12色が並ぶ箱の中でも、青いクレヨンがいちばん短くなっていた。
「そら、うみ、みてみたぃ・・・。いつか」
「みっ、見れる! 見られるて!!
きっと病気なんかすぐ治るわ!!」
ハイネはグッと拳を握る。
「せや。うちな、錬金術の勉強してんねん。
あ、錬金術ってのはお薬とか、カガクとか・・・
あぁもう、そんなんどうでもえぇか。
うちがその錬金術でがんばって、フェナちゃんの病気が治る薬作ったる!!
そしたら一緒に外行こうや!! な? な??」
「・・・ぅん」
フェナは相変わらず無表情だが、どこか口元が少し笑ったような、そんな感じがした。
「で、うちのことやねんけど・・・。
結局ここどこや?
うち、なんでここにきたんやろ・・・。フェナちゃんのため?」
「たまに・・・クラインがつれてくる。
でも、ハイネみたいないいこ、ぜんぜんいない。
みんな、フェナをこわがってにげちゃう。
だから、て、と、あし、を・・・きっちゃぅ」
「え・・・」
ハイネは急に寒気を感じた。
目の前の得体のしれない少女は、何か危険なものを秘めていると本能が警鐘を鳴らす。
「あ、あの、手と足て・・・」
「ハイネはにげないから・・・きらないょ。
でもにげちゃうなら・・・ぷちって、しちゃぅ」
「に、逃げへん逃げへん!!
うちはもうフェナちゃんのトモダチや!!」
「そぅ。それなら、よかった」
この子が抱える闇は、ハイネのような子供では受け止めきれない。
とはいえ余計な事をすると五体満足でいられなさそうだ。
ハイネはぎゅっと胸を押さえる。
本音が漏れてしまわぬよう、鼓動を鎮める事に徹した。
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