次にコーネルが目覚めたのは夜だった。
咄嗟にガバリと起き上がり、眠るジストに目をやる。
彼女は未だ昏々と眠り続けていた。

「おい小娘!!
半刻後に起こせと言ったはずだ!!」

掴みかかる勢いでカイヤに迫るが、彼女は呑気に茶を啜っていた。

「起こしましたよ。
でも王子、全然起きないんですもん」

「なんだと・・・」

ふう、と息を吐いてから、カイヤは傍らにあったもう1つのカップを手に取って茶を注ぐ。

「これでわかったでしょう。
ボクもカルセドニーさんも、別に姫様に危害を加えようとしていないってこと」

確かに、ジストは無事だ。
ソファで本を読んでいたカルセドニーがコクコクと頷いた。
コーネルはバツが悪そうに舌打ちをすると、カイヤから渡された茶を一気に飲み干す。
彼が力任せにカップをテーブルに置いた振動と偶然重なった音が、窓の方から聞こえた。



しん、と静まり返る。
3人は窓に目をやった。



「なんだ?
風の音にしては妙な・・・」

ガラ、と窓を開けたコーネルは、瞬間的に向けられた殺意を咄嗟に身を翻してかわした。





「あ~、やっぱり殺し損ねてんじゃん。
クラインの言う通りだったね!!」

窓から覗いたのはその声の持ち主ではなく、鋭利な鎌だ。

「誰だ貴様は?!」

コーネルはすぐに剣を手にし、窓の向こうを威嚇する。
鎌が引っ込んで、次に現れたのは少年の顔だった。

「お兄さん、おもしろそう!!
僕と遊ばない?」

「何者だ!! ジストが狙いか?!」

「そうだよ。
でもまずお兄さんと遊びたいな!!」

血のような真っ赤な瞳と、対なすような淡い緑金髪のその少年がそう言う。

「お、王子! 気を付けてください!!
その子、“ホムンクルス”です!!」

「はあ? なんだそれは」

「人造人間ですよ!! 人工的な魔力を感じます!!
ヘタを打つとやられちゃいますよ!!」

カイヤはすぐに近くのカルセドニーの腕をつかむ。

「姫様をお願いします。ボクは王子に加勢しますので!!」

「わかった」

カルセドニーはジストを庇うように構え、カイヤはコーネルと窓から外へ飛び出る。

「フン・・・。人造人間だかなんだか知らんが、人形みたいなブツなどにしてやられるものか。
俺だけで十分だ」

「もう!! またそうやって強がるんですから!!」

カイヤは短く何かを詠唱し、コーネルに向けて放つ。
彼は、体が軽く、力が増強されたような感覚を覚えた。

「出来る限りサポートしますから、なんとかしてください!!」

少年は楽しそうに笑う。

「あはは、こうでなくっちゃねぇ!!
僕はロコっていうんだ。よろしくね」

「どうせすぐに過去のものになる名だ!!」

コーネルは素早く斬りかかる。
それをロコが鎌で受け止め、くるりと身軽に体勢を変えた。

「みーんな殺して、クラインに褒めてもらうんだ!!
だから死んでね!!」

シュッ、と鎌が空を裂く。


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