「止血は間に合いました・・・。
でも、意識が戻るまでは油断できません・・・」

駆けこんだダインスレフの宿屋でジストの治療をしたサフィは、泣き腫らした瞳でベッドの上を見つめる。

「そうか」

感情のない相槌がコーネルから返ってくる。

「ど、どうするんですか、これ・・・。
いつ目覚めるか、わかんないし・・・」

「小娘。貴様は目的を果たして来い。
俺達に構う事はない」

カイヤはぽかんとする。

「で、でも」

「それからそこのゾンビ。
貴様は主を連れて出て行け」

壁際で寄りかかっていたアンバーは飛び上がる。

「え?!
な、なんで?!」

「所詮は傭兵。
・・・俺はもう、“貴様ら”を信用しない。
ジストの一命を取り留めた事は感謝する。
だがこれ以上俺達に関わるな。
記憶のないそこの貴様も同じだ。腹の底が読めない奴は徹底的に追い出す」

立ち尽くすアンバーとサフィ、カルセに代わり、カイヤが鞄を床に叩きつける。

「なんですかそれ?!
裏切ったのはメノウさんじゃないですか!!!
ボクはともかく、ここまで一緒に来てくれたのはアンバーさんとサフィ、カルセドニーさんですよ?!」

「もう俺は、誰の手も借りない。
ジストは・・・俺が守る」

どさ、と椅子に座り込み、コーネルは両手を組む。

ショックでしゃがみ込んだサフィを支え、アンバーは鼻で笑う。

「何かっこつけちゃってんの?
王子1人で何が出来るって言うのさ」

「なんだと?」

殺気立つコーネルだが、アンバーは口元を歪めた後に鋭い瞳を覗かせる。

「いいよ、そこまで言うなら出て行ってやろうじゃん。
でもね、これだけは言っておくけど」

琥珀色の瞳が殺意を纏う。

「俺は何を言われたって別にいい。
でも、・・・何の罪もないサフィを傷つけた罰は重いよ。絶対許さないから」

アンバーはサフィを抱えるようにして部屋を出て行ってしまった。





「信じられない!!
王子はバカです!! それも大がつくほどのバカ!!」

「なんとでも言え。
貴様も父親が恋しければさっさと出て行くんだな」

「えぇ、わかりましたよ!!
もう知りませんっ!!!」

ズカズカと扉に向かうカイヤだが、立ち止まる。

「って、こんな生活力なさそうな人達だけ残して行けるかバカァ――!!!
のたれ死なれたら末代まで呪われそうでイヤですよ!!
ボクはここに残りますっ!!!」

「・・・僕も、ここにいたいな」

カルセはぽつりと呟く。

「貴様がここにいる理由などない」

「僕もジストを守りたいって理由じゃ、だめかな」

真っ直ぐな青銀の瞳は、コーネルに刺さるように注がれる。

「・・・勝手にしろ」






曇天の下でサフィはアンバーの袖をつまむ。

「どうしてあんなことを・・・!
私は、いくら傷ついたっていいんです。
せめて、ジストさんが目覚めるまでは傍に・・・!」

「まぁまぁ、今は離れる時なんだよ」

不思議そうに見上げるサフィの瞳に、無理矢理作った笑顔を浮かべる彼の顔が映る。

「きっとね、メノウさんには何か事情があったはずなんだ。
それがわかった時、俺達はまたジスト達と一緒に行けるさ」

「事情、ですか・・・?」

「あのメノウさんが、人間1人を殺せなかったんだよ。
王子の機転もあったけど、その程度で手元が狂う人だと思う?
・・・あの人が一番大切なものって、サフィも知ってるでしょ。
ジストの命はたぶん、“それ”と天秤にかけられたんだ」

「・・・まさか・・・」

「俺達は俺達で“あそこ”に向かおう。
妙な胸騒ぎがするんだ」

去り際、サフィは振り返る。
小さく、ごめんなさい、と呟き、アンバーを追いかけた。


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