突然、運び屋から手紙が届けられたかと思えば、それを受け取ったメノウの様子がおかしい。
言葉少なに、ただ、“酒場へ行ってくる”とだけ言い残して夜まで戻らなかった。





ホグニの街を出て、首都ダインスレフの手前、ヘジンの街まで来ていた一行は、いよいよ目的地に迫るここで足止めを食っていた。
ヘジンの街は商業が盛んなホグニとは反するように、閑静な住宅街と宿場街が並んでいるようなところだ。
隣のホグニとは距離が近く、大方、商人達のねぐらがここなのだろう。

「あの傭兵、この期に及んで怖気づいたか?
これだから野良犬は・・・」

「メノウさんに限ってそれはないでしょ」

宿屋で彼の帰りを待つジスト達は、時計を見つめながら時間を潰していた。
メノウが出かけている日中に宿場街の店舗を周ってカルセの指輪を探したが、やはり手がかりはない。
カルセは無表情の片隅に申し訳なさそうな色を浮かべていた。



メノウが戻ってきたのは夜も更けた頃だ。

「まったく、いつまでほっつき歩いているのだ!!
君の自由までは拘束しないが、空気というものを読めっ!!」

腰に両手を当ててご立腹のジストに、すまん、とだけ答えてメノウは寝室の方へ引っ込んでしまう。
拍子抜けのジストは、ぱちぱちと瞬きをして彼の去りゆく背を見やる。やはり様子がおかしい。

「具合でも悪いのでしょうか・・・?
わ、私、ちょっと様子を見に・・・」

あわあわと気を利かせようとしているサフィをアンバーが宥める。

「懐が寂しくなったんじゃない?
ジスト、メノウさんをタダ働きさせてるんでしょ?
軽い仕事でもしてきて疲れたんじゃない?」

「いや、それはその、だな」

不満をぶつけた矢先にジストは焦る。
無理もない。まるで財産を持ち合わせていない彼女の費用を立て替えているのは彼なのだ。
旅の終わりに莫大な報酬を、と呑気に考えていたが、そもそもジストの城は滅びているし、その報酬とやらを支払えるのが一体いつになるかもわからない。
これ以上は墓穴を掘る、と判断し、ジストは解散!と号令をかける。

「今日はもう寝よう!!
明日は朝から出発するぞ!!」

忍び笑いのアンバーの背に拳を入れ、ジスト自身も寝室へと向かう。


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