「なるほど、骨董屋か!」
カイヤの提案で、宿を出たジスト達はこの街の骨董屋に立ち寄る。
記憶を失くしたカルセが唯一覚えていた“大切な指輪”の手がかりを求めて、一行は古ぼけた骨董屋に足を踏み入れた。
ここ、玄関都市ホグニは、他にも時計を売る店、独自の服装の仕立て屋、機械を直す店など、その道の職人が集う街でもある。
「いらっしゃい」
店の奥で新聞を広げていたのは、ブルーブロンドが目を引くエルフの青年だった。
黒の国は人口が密集しており、その種族の内訳も様々だ。
他の国ならば種族によって偏見や優遇が多少なりとも見られるが、この国はもはやそのような問題を注視するほど暇でもないのだろう。
そこだけは評価できる、と内心ジストは感心しているのだった。
「珍しいお客人だね。
何をお探しかな?」
店主はユークと名乗る。
ジストはカルセを横に連れ立ち、事情を説明した。
「指輪を探しているのだ。
失くしてしまったらしくてな、もしや誰かに拾われてどこかの店に売られたのではと」
「指輪か」
ユークは店の奥から古びた箱を持ってきた。
蓋を開けると、大小さまざまな宝石をあしらった年季もの風の指輪がズラリと並んでいる。
「うちにある指輪はこれで全部だ。
どれか、心当たりはあるかな」
カルセは箱を覗き込み、うーん、と唸る。
「ここにはないみたい。
覚えていないのかもしれないけど、なんだか・・・やっぱり違うんだ」
「覚えていない指輪を探しているのかい?」
当然、ユークは疑問を口にする。
「彼には記憶がないのだ。
店主よ、この青年に見覚えはないだろうか?
この街の近くで倒れていたのだ」
わかってはいたが、やはりユークは首を横に振る。
だが、その次に続いた言葉がジストを驚かせる。
「記憶に関する魔法に詳しい人がいたはずだ。
確か・・・レムリアといったかな?」
「れ、レムリアだとっ?!」
あらぶる猛獣かと思うほどジストに食いつかれ、ユークはぎょっとして背を反らした。
動揺のあまり上手く言葉が出ないジストの首根っこを掴んだメノウが代わりに尋ねる。
「そのレムリアとかいう奴、今、黒の国にいるんか?」
「そのはずだよ。
中心街のダインスレフにある医療機関に所長が帰ってきたって噂になってるから」
「医療機関の所長やと・・・?」
「あぁ。三賢者のレムリアはダインスレフ国立医療機関の所長なんだ」
ジストとメノウが顔を見合わせる。
「ちょうどいいじゃん!
俺達、そのレムリアって人を探してここまで来たんだ。
手がかり掴めてよかったね、ジスト!」
アンバーは呑気にそう言うが、ジストはますます自分の中に不信感が積もるのをひしひしと感じている。
「あぁっ!」
横で骨董を眺めつつ話を聞いていたカイヤが突然叫ぶ。
何事かと皆が彼女に注目する。
「レムリア・・・そうだ、レムリア!!
博士に届いていた手紙の送り主の名前!!」
カイヤは振り返り、ジストに駆け寄る。
「博士を攫った連中、そのレムリアって人と関係あるはずです!!
その人から届いた手紙、博士がバラバラにしちゃったので正確な内容はわからないんですけど・・・
ダインスレフに来い、みたいな話だったと思います」
クレイズが切り裂いたレムリアからの手紙。
手紙の内容はダインスレフにクレイズを呼び寄せる目的だったようだが、“バラバラにした”という事は、それが彼の答えだったのだろう。
恐らく、それが何らかの逆鱗に触れて、魔法学校襲撃事件の引き金になった・・・――
ジストは点と点が繋がっていく実感に青ざめていた。
「ダインスレフに行くのかい?
だとしたら気を付けた方がいい。
あそこは最近妙な噂が多いからね」
ユークは指輪の箱に施錠しつつ警告する。
「妙な噂とは?」
「“人体実験している”・・・なんてオカルトチックな話題だよ」
これから目指す先に待ち受けるものがなんなのかはわからない。
しかし行かない訳にもいかない。
ジストは改めてメノウを見上げる。
当の彼は彼女の視線に気が付き、ふっ、と鼻で笑った。
何も言わずとも、彼はただジストの護衛としてついて来てくれる。
その合図だ。
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