黒の国の玄関都市ホグニは、規模こそ小さいなれど、街のほとんどを機械に頼った機械都市の片鱗を見せている。
植物が一切ない。代わりに、街灯が点在している。道は整備され、石畳が街中を血管のように這っている。
いくらか人通りはあるが、他の国に比べて賑やかさが薄い。
それに、道行く人は皆黒い服を着ていて、まるで街全体が喪に服しているようにも見える。
倒れていたカルセドニーも黒い服を着ている。ひょっとしたらこの街の住人かもしれない、と思い付き、一行は休める場所を探す傍らで街の人々に彼の事を尋ねてまわった。
しかし、誰一人として彼に心当たりがない。
「うーむ。ホグニの住民ではないのだろうか」
街の広場のベンチに腰掛け、足を休める。
「カルセ、どんな小さなことでも、何か覚えていることはない?
家族とか、恋人とか、ペットとか」
「ペット」
カルセが呟く。
「動物・・・好き。
白い、子犬。飼ってた・・・昔」
「さすがにそれじゃわからな・・・」
呆れるカイヤをジストが制止する。
「白い犬、確かシリカが連れていたな? サードと言ったか」
「あぁ、まぁ・・・。昔父親に貰ったんやて。
でも関係あらへんやろ」
それもそうか、とジストは項垂れる。
「友達は・・・いっぱい、いた、気がする」
「お!カルセって案外社交的だったりして?!
どんな友達?!」
「えっと・・・
犬と、猫と、小鳥と、・・・」
指折り数えるカルセを見て、ため息しか出ない。
「巡業の方、でしょうか・・・?
動物と一緒に芸をしてまわる一座があると聞きますが」
「んやー、どう見ても巡業に向いてるほど鍛えてはいなさそうだよねー・・・」
確かに、カルセは男性にしては小柄だ。
恐らくジストやコーネルと同年代と思われるが、繊細そうな容姿と細身の体躯は活動的な印象とは程遠い。
しかし道端で倒れていたとはいえ、身形や仕草から、中流以上の出身である事はうかがえる。
どこかの貴族の子息かもしれない、とはなんとなく想像ついた。
「あ、指輪」
悶々と考え込む一行が一斉に彼を見る。
「指輪って?」
「大切にしていた指輪・・・、とられちゃった、気がする・・・」
彼は自らの人差し指にそっと触れる。
「なるほど。ではこうだな。
どこかの賊に襲われて指輪を奪われた。その衝撃で記憶を失った!」
ぽん、とジストは手を打つ。
だが、それで何か解決したかというとそうでもない。
「まぁ、ほら・・・
記憶喪失って、そのうちポロッと思い出すって言いますから・・・
時間が解決してくれるんじゃないんですかね?」
諦め風のカイヤだが、すかさずジストに肩を揺すられる。
「カイヤ!君の摩訶不思議なものが詰まった鞄の中に記憶喪失を治す薬はないのか?!」
「そんな都合のいい薬があるわけないですよ!
ヒトを便利な機械みたいに言わないでくださいッ!!」
「どうでもいい。そんな事よりとっとと宿を探さないと日が暮れるぞ。
空が暗すぎて時間帯がわからんが」
広場の時計塔を見上げると、もうすぐ夕方だった。
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