察するに、この青年は記憶喪失というやつなのではないか。
カイヤが冷静に分析するが、当の青年本人はぼんやりと虚空を見つめるばかり。

「何も覚えてないの?」

背負って運ばれている後ろからアンバーが気さくに声をかけるが、青年はその問いにさえ首を傾げる。

「重症だな。自らの名前すらもわからんなど」

「おい、コーネル。そう冷たくするでない!
ここで会ったのも何かの縁だ。だろう、サフィ?!」

「は、はいっ!
お一人では危険ですから・・・。私達がついていますよ」

「くうっ・・・!サフィこそ私の天使・・・!」

「くだらない」

足早に歩を進める。その間、青年はおとなしく目を閉じていた。

「名前わからへんのか・・・。なんて呼ぶか」

ジストははっとする。

「そうだ!名前がないと呼べないではないか!
待て、私が素晴らしい名前を考えてやろう」

「はっ。お前の感性で名づけられるなど不運だったな」

「ええい!煩いぞコーネル!
私とてやる時はやるのだ!!」

うーんうーん、と腕を組んで名前を考える。
しばらくその調子だった後、ジストは立ち止まった。

「“カルセドニー”はどうだろうか?」

一行はきょとんとする。

「へー。ジストの事だからてっきり酷いセンスしてるのかと思ったよ。
いいんじゃない?
長いからカルセって呼んじゃおー♪」

「うむ!
この名は・・・かつて私に付けられるはずの名前だったのだ。
父上が考えてくださっていた」

「アメシス王の? いいの?」

「あぁ、いいんだ。私には“ジスト”という名がある。これも父上からいただいた名だ」

「何か事情がありそうですね・・・?」

興味深そうなサフィに、ジストは説明する。

「私が“息子だったら”父上が贈るつもりだった名らしい。子供の頃にそんな話を聞いた。
私によく似た君にはふさわしいと思うが、どうだろうか?」

メノウの背でぼんやりと話を聞いていた青年は小さく頷く。

「うん・・・ありがとう・・・。
じゃあ、僕はカルセドニーになる・・・」

「あぁ!気に入って貰えてよかった!!
さぁ、街までもう少しだぞ!メノウ、競争だー!うおー!!」

「アホか。走れへんわ」

うっすらと街明かりが見えてくる。

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