「ごほっごほっ・・・」
ジストが抱えていた青年が咳込む。
瞼が微かに震えると、やがてうっすらと目を開いた。
「気が付いたか?!」
「気・・・が・・・?」
か細く聞こえた声音も、どことなくジストを思わせる雰囲気。
ただ、開いた瞳の色は澄んだ青灰色だった。
ジストはその瞳を見て、思わす息を飲む。
「ジストさん・・・?」
サフィに顔を覗きこまれたジストは、半ば興奮気味に身を乗り出した。
「なんという事だ!!この美しい瞳の色!!
どこかで見たような・・・」
「あーもう!姫様!アナタ女性も男性も節操なさすぎですよ!!
ほら、その人も困惑してますから・・・」
「だれ・・・?
君達、は・・・」
不安そうに青年の瞳が揺れる。
怪しい者ではない、とジストは笑顔を見せた。
「我々はこの先の街へ向かっている旅の者だ。
ちょうどいい、街で少し休ませてもらおう。
メノウ、この青年を頼めるだろうか?」
「はいはい・・・」
メノウは背にかけた大剣を隣のコーネルに渡し、横たわる青年を軽々と背負いあげた。
「何故俺が傭兵の武器を受け取らねばならない・・・」
「だって王子がいちばん軽装じゃん?」
アンバーはしてやったり風にニカリと歯を覗かせた。
「ところで青年よ、名前はなんと言うのだ?」
メノウに背負われた青年にジストが尋ねると、力なく身を預ける彼は首を傾げた。
「名前・・・わからない」
「ワカラナイ?」
「姫様アナタ馬鹿でしょ!
自分の名前がわからないって言ってるんですよ!」
「なんと?!
どこから来たのかは聞いてもよいだろうか?」
「どこから・・・」
青年はまた首を傾げた。
「わからない・・・」
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