一瞬、新しい遺体かと思った。
だが様子がおかしい。真っ先に駆け寄ったのはジストだった。

「お、おい、しっかりしろ!大丈夫か?!」

倒れていたのは青年だった。見るからに旅装束とはいえない、黒い上着を羽織っただけの軽装だ。
うつ伏せになっていた彼をジストが揺するが、返事はない。

「い、いやですね。死体ですか?
姫様、迂闊に触らない方が・・・」

「サフィ、カイヤ、ちょっと来てくれないか」

ジストは青年の頭を膝の上に乗せ、顔を向けさせる。
彼の黒髪を指でどけると、青白い顔が露わになった。
唇の血色が悪いが、どうやら死んでいるわけではなさそうだ。
耳をすませば、今にも消え入りそうな吐息が聞こえる。

「た、大変・・・!
治療します!」

サフィは躊躇いなく彼のかすり傷を癒す。
一方のカイヤは顔を歪めた後に鞄の中の小瓶を漁った。

3人が夢中で介抱する傍らで、コーネルは背筋がゾッと凍るのを感じた。

「おい・・・傭兵」

小声でメノウを小突く。

「これはどういう事だ・・・」

「あんさんも結構鋭いなぁ」

ぼそぼそと囁き合う隣でアンバーが口を開く。

「ねぇ、その人。
・・・ジストに似てない?」

全員の動きが止まる。



「私に・・・だと?」

「ほ、ほんとだ。姫様そっくり・・・っていうか、」

生き写しだ。
ジスト以外の誰もが思った。

この世界で生まれついての黒髪は少ない。
それだけではなく、中性的な顔立ちも肌の色も背格好も、不気味なほどによく似ていた。
最も悍ましさを感じたコーネルの脳裏にはアクロの姿が浮かぶ。

「“ドッペルゲンガー”って知ってます?
世界に何人か、自分にそっくりな人がいるって」

カイヤが青年の腕に何かを注射しながら呟く。

「ボクは会った事ないですけど、博士はあるって言ってました。
王子も、確かそうでしたよね?」

「そのドッペルゲンガーってやつ、そうそう頻繁に会うものなの?
俺は会った事ないけど・・・。
ただの偶然、・・・って思いたいけど、なんとなく嫌な感じする。
それも、俺達が旅を始めたこの期間だけで、2人目だなんて」

「うっ」

突然の呻き声が遮る。

-154-


≪Back | Next≫


[Top]




Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved