黒の国へと至る道は、利用する者がほとんどいない乾いた土地だった。
砂漠の灼熱とは打って変わり、常に淀んだ雲が空を多い、雨の代わりに黒い灰が舞う痩せこけた環境。
外側からその地帯を見る者は、口を揃えて“死の国”と表現する。

植物は枯れ、地面は乾き切った石の道。
水辺も少なく、枯れる寸前の池は生物が住めないほど黒く濁り、底が見えない。
時々、用途をなくした古い機械の部品が雑然と積み上げられて小高い丘を作っている。
とても人が住めそうには見えないが、外側の者が知らないだけであって、黒の国は人口が密集している。

関門が厳しいわけではないが、誰も好んでこの地に立ち入ろうとしないのだ。
ただ、国から逃げてきたような方向で、朽ちた人骨が降り積もった灰に埋まっている。
一度入ったら出られない、そういう場所なのだろう。



「不気味すぎませんか。
本当にこの先に人里があるんですか」

黒の国へ向かう事を譲らなかったカイヤが、気丈に振る舞いつつも蒼白な顔でついてくる。

「確かに、薄気味悪いところだな・・・。
メノウ、本当にこっちで合っているのか?」

「あぁ。昔っからこういうところや。
ここは雨の代わりに灰が降る。ここの雪は黒い。この雲は晴れん。もう何十年も、太陽の光を浴びてない。
行き過ぎてるんよ。文明ってヤツがな。
なんでもかんでも機械にしてまう。その機械を動かすには、ここの自然を殺す必要がある」

「おい、傭兵。いやに詳しいがどういう事だ」

コーネルが尋ねると、煙草を咥えたメノウが目を細める。

「ハイネが生まれたのは黒の国のダインスレフって街や。
しばらく暮らしてた事がある」

はっとしてサフィが立ち止まった。つられたアンバーも立ち止まる。

「私、教会にいた頃に聞いた事があります。
昔、黒の国では奇妙な病気が流行ったとか」

「まぁ、こんな見るからに不健康そうな国に住んでたらヘンな病気も流行ったりするだろうね。
俺もなんか聞いた事ある。当時わりと大きな事件になってたよね?」

「せやなぁ・・・。
アガーテも、それで死んだからな」

メノウはぼんやりと呟く。

「せやから、ハイネ連れてブランディアに移ったんよ。
ほんまはここに家があったねんけど、アガーテの墓はブランディアにある。
ここは・・・負の感情しかないわな」

昼も夜もわからない、暗い光景。
少し先の方で、誰かが倒れているのに一行が気が付いた。

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