荒涼とした砂漠の早朝に、笛を鳴らすような鳥の声が響く。
重たげな瞼を静かに開くと、見慣れない天井が視界に入る。
全身に微かな痺れが残り、異常な倦怠感に苛まれる。目を閉じる前の記憶が曖昧だ。
わずかに首を傾けると、そこら中の床で雑魚寝をしている仲間達がいた。
全身を襲う何かの後遺症。そしてそれとは違う痺れが腕を走るのを感じれば、すやすやと寝息を立てているジストが枕代わりに頭を預けてきていた。
一体何が起こったのだろう。
目を覚ました彼――メノウの記憶に、ここ数日の光景が残っていない。
「気が付かれましたか?」
囁くような声がした。サフィだ。
黒い袖を捲った隙間から覗く彼女の白く細い腕は水で濡れている。
一晩中甲斐甲斐しくメノウの看病をしていたらしく、濡れたタオルを手に微笑みつつも、眠気を堪えているのが見て取れる。
「ここは・・・?
どないなってん・・・?」
「いろいろ大変でした。でももう大丈夫ですよ。ここはティルバ様が特別にあてがってくださった宿屋です」
「ティルバ・・・」
懐かしい名前だ、と彼は霞がかった頭で考える。
そして、かつての主の存在が古い記憶から掘り起こされた。
思い出したくない。無意識に彼は首を横に振っていた。
「サフィ、疲れたやろ?
ワイはもう平気や。ちと休みぃ」
「大丈夫です。他の皆さんが起きてから交代で休みます。
メノウさんはお気になさらず、ゆっくり休んでください」
彼女の気遣いに感謝するばかりだ。
メノウは静かに目を閉じる。
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