鞄に小瓶をしまいながら、カイヤはため息を吐く。
「解毒剤がこんなところで役に立つなんて。
ま、もう大丈夫ですよ。一晩休めば意識が戻るくらいには回復しますから」
「さっすがカイヤ~ん!!やっぱり博士さんの弟子なんだね!!」
「別に!
これくらい当たり前ですから!!」
昏々と眠るメノウは、なんとか様態が落ち着いたようにゆっくりとした呼吸をしている。
「それにしても、王族ともあろう人が他人に薬物を使うなんて。
どんだけ恨んでてもそれはやっちゃいけないでしょうって感じなんですけど」
「兄上はそういう人なんだ」
かつての従者を見つめるティルバは、申し訳なさそうに眉を下げる。
「兄上は、よほどアガーテに執心だったようだ。
まぁ、女の私が見てもそれはそれは美しい娘だったよ。おまけに学もあった。
でも、彼女はいち早く兄上の闇を見抜いて、政治目的で嫁がされる我が身を嘆いていた。
彼女はね、婚礼前に何度か城に来ていて・・・ロートにも出会っていた。
彼女は一目惚れしたそうだ。それで、私はどうしても、アガーテとロートに幸せになって欲しいと願って・・・2人が城から逃げられるよう手配をした」
私のせいかもな、とティルバは苦笑する。
「そのアガーテという人物は・・・もしや」
「あぁ。きっと、彼の指輪の贈り主だろう」
「へぇ。すごいな、メノウさん。駆け落ちしちゃったわけか」
「聞いてよかったんでしょうか、そのお話・・・」
「ふふ。後で怒られてしまうかもな」
さて、とティルバは立ち上がる。
「あまり長い間王女が平凡な宿にいるのもおかしな話だ。
君達が鉄槌を下した兄上の様子を見に戻るとするよ」
気まずそうにコーネルが顔を背ける。
「さらばだ。君達の旅の成功を祈るよ」
ティルバは去り際に、眠るメノウに囁く。
「さようなら。――幸せに、な」
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