伝えないと・・・――
誰かに。
誰に?
夜道を走りゆく黒い影。
青白い顔、嫌な汗が伝う。夜風の中で、夜空のような黒髪がなびく。
視界がぐるぐると回っている。
真っ直ぐに走っているつもりでも、左右にぶれながら、道なき道を行く。
やがて足はもつれ、そのまま転んで倒れる。
ズキズキと痛む胸。苦しい。苦しい。
気が遠くなる間際、目の前で誰かが立ち止まった。
その人物はしゃがみ込み、薄紫の瞳を静かに向ける。
「哀れな王子。誰かさんと同じですね。
まぁ、本当に同じなんですが。
いえ、どうでもいいですね。貴方はもう、立ち上がれない」
白い手が伸びる。
回る視界に、その手が迫る。
「いけない子です。施設から逃げてしまうなんて。
いけない子には罰を与えなければいけません。
私の罰は重いですよ? 覚悟はいいですか?」
「待っ・・・いやだ・・・たすけ・・・」
「ここまで育てて差し上げたのは何処の誰だと思いますか?
その恩を仇で返されては困ってしまいます。
ねぇ、・・・――」
何かが奪われていく。
ありとあらゆる何かが、その人物に。
「僕は・・・」
僕は、誰?
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