「どうだ? 偽りの姫君。
貴様はどう足掻いても女なのだよ」

「私にこのような服を着せて楽しいと言うか?
聞いて呆れるぞ、ヴィオル王」

「その生意気な口がきけるのも今のうちだ。
すぐに俺の言いなりとなり、屈辱的なまでに囀るだろう。
さぁ、俺の腕の中へ来い。ゆっくりと解き解してやろうぞ」

もはや嫌悪を通り越して殺意さえ芽生えるほどだ。
ジストの目には、目の前に立つこの男が国王ではなくケダモノにしか映らない。
その手が、指が、肌に触れてくる。
ヴィオルの唇が迫った時、反射的にジストは拳で彼を殴り飛ばしていた。



「なっ・・・」

「私の唇は可憐な乙女のものしか受け付けない!!失せろ外道!!」

「貴様ッ!!」

ガシッ、と肩を掴まれ、そのまま張り倒される。
一瞬怯んだが、ジストも負けじと暴れて蹴りつける。
しかし大人の男にジストが敵うはずもなく、むしろ攻める彼の都合のいいように体勢が作られてしまう。

「くっ、放せ!!ふざけるな!!私をどうする気だ!!」

「存分に足掻け。俺は貴様を指先から爪先まで堪能してやる」

「やめ・・・」

扉が突き破られたのは直後の事だ。





「ジスト―――ッ!!!」

傍にあった壺を頭上に持ち上げてコーネルが走ってくる。
何事かと振り返ったヴィオルの額に壺が叩きつけられたのは次の瞬間だった。



あえなく昏倒したヴィオルがベッドの下の床に転がり落ちる。
ゆっくりと起き上がったジストが見たのは、今までに見た事がないほど明確な殺意を宿すコーネルの瞳だった。

「コーネル・・・君、どうして」

「王子ってば無茶無謀です!
どうするんですかこれ!!一国の王を殴り倒しちゃったじゃないですか!!」

カイヤが慌てて追いかけて入ってくる。
それでもコーネルは過呼吸気味に肩で息をしながらヴィオルを見下し踏みつけた。

「どうでもいい・・・。
こんな欲情の塊が治める国なんて滅びてしまえばいい・・・」

「お、おいコーネル」

「大丈夫だったか、ジスト」

無言でジストは立ち上がる。
一歩、二歩と歩み寄ってきた彼女は、笑顔になってコーネルに抱きついた。

「お、おい!」

「はは、すまない。こんな醜態を見せてしまって。
ありがとう、助かった」

知らない香りがする。
抱きついて離れない幼馴染みを、なんとなく抱きしめ返す。
コーネルの腕が、彼女の小さな震えを感じとった。

「と、とにかくっ!
姫様も無事でしたし、早いところ逃げましょうよ!!
こんなところお城の人に見つかったら、それこそ奴隷送りですよ!!」

「それもそうだな。
ジスト、走れるか?」

「なんだ? 妙に優しいな」

「煩い。その口が叩ける余裕があるならさっさとついて来い」

ピクピクと痙攣しているヴィオルを置いて、3人は城の中を走った。

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