門番はゼノイと名乗った。彼もまた、奴隷闘士だった過去を持ち、今は城に仕える兵だという。

「10年前、俺はこの城に配属された。奴隷上がりの俺は城ではよく思われなかった。
理不尽に責められた事もある。酷い仕打ちを受けた事もある。それを庇ってくれたのはアードリガー隊長だ。あの人は何度も俺を庇ってくれた。
だから、俺はあの人を今でも尊敬しているし、恩を返したい」

城の陰になっている裏手に一行を案内する彼は、道中でぽつぽつとそう語った。

「なーんだ。メノウさんってお城に仕えてたんじゃん。
立派な肩書きもあったのに、どうして傭兵なんかに」

「そうか、今は傭兵なのか」

ゼノイは呟く。

「あの人は、“あの時”もそうだった。1人を庇って、自分の肩書きを捨ててまで、この城を去った。
あの人がここを出てから、歯車が狂ったような気がする。
・・・もはやヴィオルを止められる奴はいない」

鉄扉の前で立ち止まると、扉の向こうで鍵が開く音がした。

「やぁ、いらっしゃい」

顔を覗かせたのは、褐色にブロンドが美しい女性。
王妹、ティルバだ。





「私も実はよく把握していなくてね。
本当にロートが捕まっているのだったら、私が協力しない訳がない」

ティルバは鍵束をぐるぐる回しながら暗い廊下を行く。

「あの人、誰です?」

カイヤが囁くと、コーネルが答える。

「ヴィオル王の妹だ。昔、5ヶ国の会合で遠目から見た事がある」

裏のないカラッとした物言いは、ジストと似ている。

「それにしても、兄上も無茶をする。
いくら亡国とはいえ、ミストルテインの王女を妃にするなんて」

独り言のようだったが、コーネルが瞬時に立ち止まる。
後ろからサフィが、急に止まった背にぶつかる。

「今、妃と言ったか?」

「そう、妃。
婚礼の儀式とは名ばかりだよ。実際は婚儀もそこそこに、兄上の欲望の餌食になるだけ。
昔アガーテという名前の美しい娘がいてね、その子も同じ道を辿った。
その子を捨て身で救い出したのが、ロートだよ」

ティルバは立ち止まる。

「二手に分かれた方がいい。
ロートを救い出す組、そしてジスト王女を救い出す組。
特に、本当にロートが囚われているのなら、危険なのは彼だ。
兄上の憎悪を一番に買っているのは彼だからね」

「よし、俺とサフィでメノウさんを助けに行こう。
王子はカイヤんと一緒に、ジストを助けに行って!」

「げ、なんでボクが王子と・・・」

「文句があるなら来なくていい」

「あー!ちょっと、置いていかないでくださいよっ!もうっ!」

「私は介入できないが、ジスト王女のところへは案内する。
ゼノイ、そっちは頼めるかい?」

「はい」

二手に分かれ、それぞれの方向へ向かう。

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