意識の在り処がおぼつかない。
重たげに目を開けると、ぼやけた視界に誰かの足が映った。

「ようやく捕えたぞ、“裏切り者”」

ぬっ、と現れた顔は不敵に笑う若い男。

「よくも10年もの間逃げ回ってくれたな。
俺はこの瞬間がくるのを今か今かと待ちわびたぞ!」

ガッ、と蹴られる。思わず咳込んだ。
反撃しようにも体中が痛み、至る所が拘束されていて動けない。

「“アガーテ”は死んだらしいな。あれほどの女はそうそういないというのに、余計な事をしてくれたな貴様は!!」

「うぐっ!」

がく、と力が抜ける。
俯いた顔を男は無理やり引っ張り上げ、下衆の極みともとれる笑みを浮かべた。

「簡単には死なせない。最高に苦しめてから殺してやろう。それが罰だ。
まずは手始めに、貴様が連れていたアクイラの娘はいただいた」

定まらなかった視線が瞬時に男を捉える。

「美しく仕立ててやったぞ。儀式が終わった後に、貴様に娘の姿を見せつけてやる。
何も悪くはないだろう? それはかつて貴様が俺にした事だ」

「・・・の、やろ、・・・!」

「・・・あぁ、言い忘れていたな。貴様が気絶している間に少しばかり盛っておいた。
そのうち気が狂うほどの苦痛がやってくる。楽しみにしているといい」

高笑いが鉄の扉の向こうへ消えた。

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