「いたたた・・・」

後頭部に鈍痛が走る。
痛む場所を手で押さえながら、ジストは億劫そうに起き上がった。



そこは上品な内装の寝室のような場所だった。
高級そうな壺や金銀で彩られた家具が煌びやかに佇んでいる。
ジストが横たわっていたのはベッドの上で、まるで城暮らしの頃のような豪奢な寝台だった。
ふかふかとしたそれに触れていると、何やら慣れない感覚が襲う。
やけに外気が肌に触れる。それに、妙に身が軽い。
しばらく考え込んでから、ベッドの脇にあった鏡の前に立つと、自分ではない自分がそこにいた。



「失礼いたします」

ノックと共に現れたのは侍女らしき娘。使用人らしくいくらかみすぼらしい。
彼女が手に持っていたのはいくつかの小さな壺のようなものだった。

「君は?
ここは一体・・・。というか、私のこの姿は一体?」

「はい。今から支度を整えていただきます」

「何の?」

侍女はきょとんとした。

「それはもちろん、ヴィオル様との・・・。
陛下がお好みの練り香と、肌にすり込む液を・・・」

「ま、待て待て待て!!
ヴィオルだと?! それはつまり、ブランディアの国王・・・」

「はい!
貴女様をお妃様として迎えたいと仰って・・・。
それで私、この記念すべきひとときのために最高級の品を揃えてまいりました」

「冗談じゃないっ!! 何が妃か!!
私はミストルテインの次期国王、そもそも女では・・・――」

「いえいえ、その婚礼衣装を見れば美しい女性だと一目瞭然でございますわ」

ジストは頭が真っ白になるのを感じた。

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