闘技場は、広々とした戦闘用の空間を囲むようにぐるりと席が並んでいた。
入ってみれば圧巻、どこからやってきたのかという人数が席をとり、立ち見客すらいる始末だった。
「凄まじい観客数だな。ここまで盛大な祭りは見た事がない」
「入口で怪しいおじさんが紙切れみたいなのを売ってたよ。
どの闘士が勝つか賭けるんだってさ」
「いかにも低俗な輩が好みそうな商売だな。馬鹿馬鹿しい」
歓声が溢れる会場で開始を待っていると、いちばん見晴らしの良さそうな空席に1人の男が立った。
「皆の者、よく集まってくれた!!今年もまた、熾烈な戦いの季節が来た!!
闘士共よ、敗北は死だ!!勝利の杯に酔いたければ全力を以てして戦い抜け!!」
一際高貴な身なりが目立つその男。ブランディアを治める主ヴィオルだ。
「あれがエレミア王家のヴィオル殿か・・・。
噂には聞いていたが、随分と若い」
「情けのない式辞だな。野蛮な国だ」
国王の言葉の後、ついに闘技者が入場してくる。
1対1、それぞれ同じ武器を構えた2人が、開始に鳴らされた火薬の弾ける音を合図に飛び掛かる。
しかしその様子は、さながら獣同士の戦いのように、狂気さを赤い血飛沫と共に散らしていた。
「お、おい、武闘の大会ではないのか・・・?」
「どうやら、俺とお前が戯れにやったような剣技とは違うらしい」
目の前ではまさに生死を賭けた戦いが繰り広げられている。
死ぬまいと目を爛々と光らせ、ただ自分が勝つ事のみを考えている顔。
やがて片方の武器が弾かれ、勝敗を決したかのように思えた。
やっと終わった、と安堵した瞬間、もはや戦意喪失した相手に片方が斬りかかる。
「えっ・・・」
敗北は死。まさに今、その言葉が現実となった。
武器を失った者は、勝者の剣で貫かれていた。
一瞬息をのむような沈黙が流れると、周囲から大歓声が上がった。
「うわ・・・。これ、聞いてたよりずっとシビアじゃん・・・」
アンバーが漏らした独り言。
カイヤは彼の隣で腰を抜かしてしまった。
「ジストさん!」
人混みを分けて走ってくるサフィの姿。
しかし呆然とするジストを見た彼女は、伝えるのが遅かったと悟る。
「ジストさん。この大会、余興なんかじゃないです!
本当に人が死ぬ、戦いなんです!」
「・・・狂っている・・・」
運ばれて退場する闘士の遺体からは赤い血が滴っている。
勝った闘士は、足を震わせながら、箍が外れたように笑っていた。
その勝者を相手に、再び、闘士が現れる。
「も、もう行きましょうよ、皆さん・・・。
ボクもう、見てられないです・・・」
「いや、待て!あれは!!」
ジストが叫ぶ。
目先に現れた新たな闘士は、見覚えのある顔だった。
「アクロ・・・?!」
コーネルは目を見開いた。
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