パン、パン、と発砲音がする。
空に向かって打ち上げられた開幕の合図だ。
「おおお!!闘技大会が始まるのか!!
少しだけ見ていかないか?!」
ジストは嬉々として提案する。
「まぁ・・・見たきゃ見に行け。
ワイはそこら辺で時間潰しとる・・・」
「ちょ、ちょっと!!
ダインスレフに行くんじゃないんですか?!」
即座に反論したのはカイヤだ。
しかしジスト達はもう見物しに行く気でしかない。
「カイヤ、君も来るといい!
この先は戦う術も重要だぞ。見て学ぶ良い機会だ!」
「もう~・・・わかりましたよ・・・」
ジストに連れられていく者、それを見送るメノウ――の隣にサフィがいた。
「お前は行かんのか?」
「はい・・・。戦いを見るのは、あまり得意ではなくて」
困ったように微笑む彼女。それもそうだろう。彼女は癒し手なのだから。
「メノウさんはどうして行かれないのですか?
てっきり、ジストさん達と一緒に見に行かれるものだと・・・」
ふう、と煙草の煙が漂う。
そういえば、久しぶりに彼のその姿を見た気がした。
「闘技大会、な。ワイも昔出た事あるわ」
えっ、とサフィが見上げてくる。
「姫さん達は知らんみたいやけど。
あれな、この国の奴隷を命懸けで戦わせる・・・富裕層の趣味なんよ」
「ど、奴隷・・・?!
大会に出る人、皆、ですか?!」
「あぁ。ブランディアには腐るほど奴隷がおる。
こうやって城下町をうろつく連中は皆、金持ちばっかりやて。
この国は、普通に暮らす人間よりも奴隷の方が多いのかもしれん。
裏路地見てみぃ。お前には刺激強いかもしれんが、薄汚い風景ばっかりやで」
サフィは思わず近場を見回す。
するとどうか。建物と建物の間にある僅かな隙間にゴロゴロと得体のしれない人々が横たわっているではないか。
あまりの衝撃に、咄嗟にサフィはメノウの腕を掴んだ。
「こんな・・・こんな・・・!
め、メノウさん!もしかして、あなたは・・・!」
「・・・ま、昔の話やて」
彼もまた、闘技大会の経験者だという。つまり、彼はそういう身分の者だったのだろう。
忌々しいあの会場から遠ざかるかのように、彼は逆の方向へ踏み出していた。
サフィも彼について行こうと小走りになる。
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