城の前の石の階段に座り込む若者は賑わう城下町を遠目で見つめていた。
城門の警備は左遷されたような仕事場である。
日がな一日、なんの脅威もなく、同じ場所でただずっと立ち尽くすのみ。
いかに平和であるかの証明にはなるが、本当にやる事がない。
降り注ぐ太陽の光の下で、今日も、来もしない敵襲のために見張りを続ける。
元より褐色の肌が更に焼けていくのを感じる。
それでも彼は満足していた。
その辺の石ころよりも酷い扱いを受けていた過去が彼にはある。それに比べたらよっぽどマシだ。
彼を地獄のような日々から脱するきっかけを与えてくれた催し物が、もうすぐ始まる。
人々に娯楽として受け入れられているそれが、この国にひしめく奴隷達の生死を分ける戦場だと知る者は少ない。
「ゼノイ、交代だ」
名を呼ばれ、若者は重い腰を面倒そうに上げて立ち上がる。
「飯食ったらすぐ戻れよ。こんな仕事はまっぴらだ。お前の専門職だからな」
冷たい言葉に見向きもせず、若者――ゼノイは城の中へと戻る。
配給された質素な穀物料理を食べながら、彼は1人外を眺めている。
無口で、無表情で、無愛想で。何を考えているのかよくわからない彼に親しく近づく者はいなかった。
――とある1人を除いて。
「ゼノイ!休憩かい?」
急に声をかけられた勢いで喉を詰まらせた彼は、水を一気に飲んでから振り返る。
「あぁ、すまないね、脅かしてしまったか!」
サバサバと女っ気のない口調で声をかけてきたのは、褐色肌にブロンドが映える女性だ。
同じ部屋で休憩に食事をとっていた者達がざわめく。
「あれはティルバ様じゃないか?」
「王女がどうして、あんな奴隷上がりの男に」
どよめきの中でも、ティルバと呼ばれるその女性は明るく笑っている。
そう、彼女はこのブランディアを治めるエレミア王家の娘だ。
「ゼノイ、少し話がしたい。
付き合ってはくれないか?」
より一層空気が淀むのを感じたゼノイだが、黙って頷いてそそくさと部屋を後にする。
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