「おとん・・・」

家中、寝静まっている。
寝付けずに自室から出てきたハイネは、客人の寝息が聞こえる部屋を通り過ぎて父親の部屋に向かう。

そっと扉を開けると、ベッドに横たわる彼がいた。

「おとん・・・寝ちゃった?」

小声で尋ねるが返事はない。
ハイネは持っていた枕を抱きしめて、そのベッドに腰を下ろす。

「おとん・・・気付いた?
うちね、身長のびたの。もうチビじゃないよ」

父に背を向けたまま、ハイネはやり場なく呟く。

「いっぱい勉強しとる。この前ね、じじが問題作ったの。
それ、解けたのうちだけだった。他の子はみーんな、わからんわこんなん、って」

ふと、青い瞳が細まる。

「なんでお前、おとんとおかんがおらんの?って、隣の子に聞かれた。
うち、わかんないよ。おとん、今日かて、ひさしぶりに帰ってきたやん。
ぜんぜん帰ってこーへんの、なんで?」

段々声が震えてくる。か細い囁きは暗い部屋の中で漂う。

「さみしい・・・
おとん、うちのこと、いらんの・・・?」

「アホか」

突然の声にハイネは飛び上がる。
後ろで起き上がる気配がした。

「・・・いらんわけないやろ。なぁ」

「おとん・・・」

「次、帰ってきたら・・・どっか遊びに行くか」

「次って、いつ?」

「わからん」

「またや・・・またそう言う」

堪えていた涙があふれてきた。

「うちもつれていって・・・
おとんと一緒にいたい!」

「無理や。危ない」

「それでも!」

「ごめんな、ハイネ」

彼の大きな手が、ハイネの頬を伝う涙を拭う。

「ははっ・・・似てきたなぁ、おかんに。
きっと美人になるで」

「ばか」

小さな手が、父親の頬を弱々しく叩く。

「ねぇ、おとん。
・・・ここで寝てもいい?」

「そのつもりで枕持ってきたんやろ」

「うん!」

ベッドによじ登り、ハイネは横たわる。

「おとん、腕枕してほしい」

「痺れるから嫌や」

「けち」

「しゃーないなぁ・・・」

おやすみ、と言葉を交わす。
優しく髪を撫でられながら、ハイネは満足げに目を閉じた。

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