目の前には広大な砂漠が広がっている。
日中は一歩踏み出すだけで干からびそうなほど灼熱の気候だったが、日が落ちて夜になると、昼間が嘘のように肌寒いほどの風が吹く。
この砂漠地帯を渡る者は皆、夜間を選んで行動する。ジスト達も例に漏れず、一行は近場にあるというオアシスを目指していた。
月の光を頼りに進む。月光は砂に反射し、地面がキラキラと輝いている。星屑の上を歩いているような、そんな美しい光景だ。
この果て無い砂漠にはところどころ過去の残骸がそびえ立っており、もはや瓦礫と化した遺跡の傍でこの地に生きる動物達がひっそりと眠っていた。
「こんな何もないところで、どうやってオアシスに辿り着くというんだ」
足に纏わりつく砂を嫌そうに見下しながらコーネルがぼやくと、メノウは風化した遺跡を指差す。
「そこの石柱から北、次に見つかる壁から南、その次の壁から西・・・」
「あぁもう説明はいい!
さっさと進ませろ。砂まみれで気分が悪い」
「たぶん夜明けまでに着くとは思う。
だがまぁ・・・そんな大きなオアシスちゃうで。期待せんといてな」
「砂と石しかない風景よりマシだ」
生まれてこの方水辺から離れた事のないコーネルはいくらか居心地が悪いらしい。
早く進めと急かす彼に苦笑いし、メノウは目的地まで一行を連れて行く。
そのオアシスの姿が見えたのは、夜空がそろそろ白む頃合いだろうか。
半日ぶりに緑と水が見え、皆それぞれ安堵する。
その村はメノウが言う通りさほど大きくはない。
砂嵐と魔物の侵入を防ぐために石の壁で村を一周覆っており、村の中心にある大きな湖に隣接するように石造りの住宅が並んでいた。
夜明けの過ごしやすい時間帯に水汲みや買い出しなどの仕事を済ませようと、時間帯のわりには人が大勢行き交っていた。
「おお、メノウや!
久しぶりやなぁ、帰ってきたんか!」
天秤棒に水が入った桶をぶら下げる中年の男が気さくに声をかけてくる。
「ビャクダンとマシューは?」
「あのジジィとババァなら相変わらずや。
顔見せてきたらえぇ。“あの子”もおるやろから、迎えに行ったれや。喜ぶでぇ」
独特の訛り口調はこの村の特徴のようだ。
メノウは振り向いて、村の奥にある屋敷を指差す。
「ちぃとばかし顔出してくる。
お前らは適当に休んでてくれや。家まで案内したるから」
「メノウさ~ん。
“あの子”って誰?!ねぇねぇ、連れてきてくれるの?」
アンバーがさもからかいたげに食いつく。
メノウが会いに行って喜んでくれる人物、となれば大体予想はついているようなものだった。
「そんなおもろいモンちゃうて」
「メノウさんのお家ってここにあるんですか?
そこにお邪魔するんですから・・・ぜひ“その人”にもご挨拶したいです!」
「サフィまでそんな・・・」
彼から気抜けた笑いが漏れる。
「わかったわかった。連れてくるから待っとれ」
「いいや!
私はメノウについて行くぞ!!」
遮るようにジストが名乗りを上げる。
「あー、ジストずるい!」
「私は“王子”だからな。皆を代表して挨拶に行かねばなるまい!!
あまり大勢で押しかけるのは失礼というものだ。君達は待っているがいい!!」
「身分が理由となると、俺もついて行かねばならないが・・・
興味はない。俺は休ませてもらう」
「ちぇっ、早く拝みたいのに。
いいよ、行こう。メノウさんの家ってどこ?」
「そこの、窓に花が置いてある家やわ」
「へぇ、意外だなぁ。メノウさんがそんなもの飾ってるなんて・・・」
「ワイの趣味やない」
つまり、“あの子”か。
アンバーは露骨にウキウキとはしゃいでいるようだ。
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