はぁ、はぁ、と息を切らす。
外は薄暗い。学校の喧騒から逃れるように、街中を走り続ける。

「おい」

図書館の近くを通り過ぎようとした時だった。声がかけられる。
低いその声を耳で捉えたカイヤは、速度を落として立ち止まる。
建物の陰から現れたのはグレンだった。

「アナタは、確か、博士の・・・」

「あぁそうだ。奴に逃がされた。お前と一緒だ。
それよりお前、どこへ行く気だ?」

「どこって」

わからない。ただ逃げろと言われただけだ。
自分は無力で、恩師も養父も救えなかった子供だ。

「一緒に来いよ。
こんなところでみすみすお前を1人にできねぇ。
俺のプライドに付き合え」

「で、でも、ボクは・・・!」

「どうせ仕返しに行きたいとかほざくんだろ。
ちょうど心当たりがある。そいつらのところまで連れて行ってやる」

港方面の道へ踏み出すグレンについて行く。
ふと、彼の近くを小さな女の子が歩いている事に気が付いた。

「グレンさん、その子は・・・」

「あぁ、こいつか?
まぁ、なんだ。死相が見える大層な嬢ちゃんだ。いろいろあって、利用させてもらってる」

喪服姿の女の子はチラリとカイヤを見るが、何も言わずにグレンの傍にぴったりと寄り添って歩いていく。

「俺もクレイズと同じだ。いずれあぁなるだろ。いいや、もう何度か同じ目に合ってる気がする。
お前はなるべく早く別の奴らと行くべきだ」

「ボクは1人でいいです」

「だから、お前を1人にしたら俺はクレイズに面目が立たねぇんだっての。
安心しろ。押し付けがましいが、俺は“あいつら”を一目買ってる」

「あいつら、って?」

「見りゃわかる。きっとな」

学校での事件の噂が街にも広まり始めたのだろう。ざわざわと落ち着かない。
港に向かうこの道は、そんな現実から遠ざかるようだった。

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