赤い血が床に広がっていく。
うつ伏せで倒れるアンリの肩を揺するが、反応がない。
「あは・・・あはは・・・!
やったわ、ダーリン!!私、貴方のためなら弟だって殺せる!!」
ローディは隠し持っていた2丁めの銃を手に艶やかに笑う。
――いつもそうだ。
――僕が手を伸ばした人は皆、
――僕の前から消えていく。
度重なる銃声で、研究室の外には人が増えていた。
動かないアンリを呆然と見つめるクレイズは、立ち上がる気力を失くしていた。
「何事ですの?
聞き慣れない音がたくさん」
教科書を抱えて廊下の野次馬に紛れていたマオリが顔を覗かせる。
しかし、わらわらと集まる人だかりで前が見ない。
その野次馬の壁を、まるで破砕するように、向こうから異様な存在感を醸し出しつつ迫る巨漢が頭一つ抜けて見えた。
「な、なんだお前は?!」
「何者だ!!ここは由緒正しい魔法学校だぞ!!
関係者以外は立ち入り禁止だ!!」
口々に人々の声がする。だが動じる様子はないようだ。
ズカズカと研究室に入っていったその巨漢は、放心している三賢者の1人の前で立ち止まる。
「手荒な真似はしたくなかったが・・・。
ローディ、他に手段はなかったのか?」
「えぇ、私はダーリンの言う通り従っただけよ」
「そうか」
端的にそう言うと、男は熊のような大きい手でクレイズの首元を掴み上げる。
あまりの勢いで激しく揺らされ、クレイズは意識が遠のくのを感じた。
「ちょ、ちょっとウバロ?
貴方の馬鹿力じゃクレイズが折れちゃうわ」
「案ずるな。手加減はしっかりしている」
「待てぃ!!」
廊下から怒声がする。
「何者だ、貴様ら!!レーゲン教授を放すのだ!!
ローディ・シュタイン!!これはどういう事だね?!」
「あら、学長。
・・・遅かったわね。もうショーは終わっちゃったの」
パリン!!と窓が体当たりで割られる。
「逃がすかぁ!!」
学長は窓に飛びつくが、人質を連れた2人はすでに姿をくらませていた。
しばしの沈黙の後、人だかりは一斉に倒れているアンリに近づく。
大量の血を流し、投げ出された手は冷え切っていた。
「誰か、誰か治療できる者はおらぬか!?」
「わたくしがやりますわ。
これでも、ローディ先生にいろいろ教わってますの」
つかつかと前に出てきたマオリを見る周辺の者達は戸惑う。
「だ、大丈夫なのか・・・?
あいつ、精霊術専攻のドベだろ・・・?」
「うわぁ、ニヴィアンの天邪鬼娘じゃないか。
やめておいた方が・・・」
「黙らっしゃいな!!
今に見てなさい、わたくしの実力はこれからですのよ?!」
喚き散らしてから、彼女は倒れるアンリの傷に手を翳す。
「ちょっぴり痛むかもしれませんけど、我慢なさって。
死ぬよりマシでしょう?」
貴方にとっては、わたくしなんて一生徒でしかないでしょうけれど。
――わりと、お慕いしておりますのよ?
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