「やっぱり効果はあったみたいです。さすがですよ博士!」
アンリが書きとめた書類を、カイヤがクレイズに手渡す。
「ふうん、井戸の水か・・・。
また姑息な手段だな。いかにも“奴”がやりそうだよ」
白の国のカルル村で起きた井戸水の汚染。
几帳面な後輩の詳細な書類を読みながら、クレイズは興味深そうな笑みを浮かべる。
「あ、あの、ところで博士」
「なんだい?」
「いつもボクがアンリ先生の出張について行きたいって言うとダメって言うのに、今回はどうして許してくれたんですか?」
「ま、社会勉強だよ」
なるほど、と無邪気に納得するカイヤを隣に招き、座らせる。
彼女の青い髪をそっと撫でた。
「ど、どうしたんですか?!
ちょ、ちょっといきなり撫でないでくださ・・・」
「潮時かもしれない」
囁くような彼の声。
それでも彼の手は優しくカイヤの髪を撫でている。
「いいかい、カイヤ君。
何があっても、絶対に“黒の国”だけは行っちゃ駄目だからね」
「黒の国・・・ダインスレフですか?」
「そう。
・・・あそこには、君にとっての害しかないから」
コンコン、とノックの音がする。
「クレイズ、ちょっといいかしら」
「あっ、ローディ先生だ!
はーい!今開けま・・・」
ソファから立ち上がったカイヤを、クレイズが抱え込む。
「は、博士?」
キィィ、と軋む音と共に扉が開き、ローディが顔を覗かせる。
「あらあら、やっぱり帰ってきちゃってたのね。
もっと早く動いておけばよかった」
ローディは白衣の下からゆっくりと黒い拳銃を露わにする。
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