冷たく閉ざされた石造りの要塞を、朽ちた木の上から眺める灰色の瞳。
内部で何かが起きているのか、武器が打ち付け合う音や怒号、悲鳴がかすかに聞こえてくる。
しかしそれを見つめる“彼”に特別な感情はない。
ただ1つ、要塞にいるであろう標的を狩るタイミングを計っているだけ。
と、そんな彼の興味を一瞬で奪う人物が足元に現れた。
「ジスト・・・どうしてここに」
一言そう呟くと、彼は身軽に地面へと降りた。
「君は・・・」
ジストが立ち止まる。
目の前に現れたのは緑髪にグレーの瞳を持つ、まるでコーネルの生き写しのような人物。
すかさずコーネルがジストを押しのけて前に出る。
「貴様!!
よくものうのうと俺の前に出てこれたものだなッ!!
・・・っ?!」
頭に激痛が走る。
思わずよろめいた彼をメノウが支えた。
「あんま気張るとあかんのちゃう?
まだ本調子やないんやろ?」
「煩い・・・!
俺はそいつに言いたい事が山ほど・・・!!」
「落ち着きたまえ、コーネル。
・・・さて」
ジストはつかつかと青年に歩み寄る。
「よせ。そいつ尋常じゃのうて」
メノウは制止するが、ジストは振り向いて微笑むと青年を真っ直ぐ見据えた。
「コーネルの言う通り、君に尋ねたい事は山ほどある。
しかし今は緊急事態でな。どうだろう、少し協力してくれないか?」
「おい、ジスト!!」
コーネルが噛みつくように止めるが、ジストは動じない。
「協力? 俺が?
お前の目的はなんだ」
その声音さえ、コーネルとよく似ていた。
まるで本人のようでいて、でもどこかが違う。間近で見る彼はなんとも不思議な空気を纏っていた。
「この要塞に、私の大事な仲間が囚われているかもしれないと聞きつけてきた。
だがこの鉄壁、どう突破したものか。それに、情けないが私達も手負いでな。
もし君が我々に害をなす存在でないというのならば、手を貸して欲しいのだよ」
「もし俺がお前達の敵だと言ったら?」
「私が死ぬ気で君に対峙しよう」
しばらく沈黙する。
青年はじっとジストを見つめ、やがて目を細めた。それは、コーネルがジストに言い負かされた時の癖とよく似ていた。
「いいだろう。
だが条件がある」
「ふむ。聞くだけ聞こうか」
「ジスト。お前は要塞に入るな」
きょとん、と彼女は青年を見つめる。
「ここは危険すぎる。お前にもしもの事があれば、俺はここに来た“意味”がない」
「・・・君は、私を守ろうとしているのか?」
初対面といってもいい彼が、そんな事を言うなど。
後ろで聞いていたメノウは何か違和感のようなものを覚えた。
「しかし・・・私が1人で安全な場所から高みの見物など。
私だって戦えるぞ? ここまでの間に腕を上げたのだから!」
「そんな遊戯の剣で敵の巣窟に飛び込むなど、覚悟が足りない」
「ゆ、遊戯だと・・・!?」
むっと頬を膨らませるジスト。
しかし何故だろう、どこかで似たような台詞を聞いたような気がする。
「お前が言った事だ」
青年はそう言うと、自らの剣の柄に静かに触れた。
「君は一体・・・
私を知って・・・?」
「ジスト」
その先を言わせないようにか、青年は彼女の名を呼ぶ。
「お前は言い出したら聞かないからな。
いいだろう、手を貸そう。極力お前は俺から離れるな」
こっちだ、と背を向けた彼は要塞の方へ向かう。
「待ってくれ。
君の名を聞きたい!」
「アクロ」
端的にそう名乗ると、彼はそれ以上語らなかった。
彼の後を一行は追いかける。
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