聞き慣れない男の声がアンバーの意識をつつく。
ゆっくり目を開けると、誰かの足元が視界に映った。
自分は今、床に横たわっている。そう解釈し起き上がろうとするが、全身が鉛のように重く、自力で動かす事が叶わない。
まるで自分の身体が自分のものではないような、ただ意識だけがそこにあるような。
投げ出された自らの四肢を見るに拘束されているわけではなさそうだが、世辞にもいい気分ではない。

「おお、やっと目が覚めましたかな」

アンバーが声の主を見上げようと視線を動かす。
そこには奇妙なマスクの男と、サフィが立っていた。

「やっと試す事ができますな。
さぁ、聖女よ。その人形を動かしてごらんなさい」

――人形?

それが自分を示す言葉だと理解するのに時間がかかった。
と、急に自分の身体が宙に浮いた気分になる。アンバーの意識とは裏腹に、彼は嘘のように身軽に立ち上がっていた。

「サフィ・・・?」

名を呼ぶと、彼女は目深なフードの下から生気を失くした瑠璃色の瞳を覗かせた。

「サフィ、ねえ、どうしたの・・・――」

気が付けばアンバーは槍を手にしていた。もちろん、手に取った覚えはないし、そもそも持っている感覚すらない。
身体が勝手に動いているのだ。

「これはいい。
どんなに無謀な戦いでも死なない“人形”。
便利な玩具を持っていたものですねぇ、聖女?」

サフィは無言で立ち尽くしている。
その無表情には薄ら寒ささえ感じる。

「サフィ、ねぇ、どういう事?!
俺、今どうなってるの?!
聞こえてる? 答えてよ、サフィ!!」

何度呼びかけても答えはない。
サフィはただ無感情にアンバーの身体を操る。
意識とは裏腹に翻弄される自分自身に、彼は最悪の事態を察した。

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