暗い地下水道の脇道を並んで歩く。
前を行くラリマーが辿り着いた先の扉を合図のようにノックすると、中からシリカが扉を開けた。

「わぁ、傷だらけ!
すぐに手当てしますから、どうぞ中へ!」

招き入れられた部屋は、地下の小部屋を無理やり改造したような住処になっている。
吊り下げられた橙の照明がぼんやりと天井から部屋を照らし、雑多に散らかったテーブルの上には酒や地図などが無造作に置かれている。
その足元でサードがスヤスヤと眠っており、部屋の隅の古いソファの上にもう1人の誰かがいた。

「フェルド、ちょっとその辺片してくれない?
メノウはともかく、高貴な子が2人も来ちゃってるから・・・
みすぼらしすぎるじゃない?」

雑誌を顔に乗せてソファに寝転んでいた人物がゆっくりと起き上がる。
ドサ、と落ちた雑誌を拾い上げた彼は静かにこちらを見た。

「?! 君は・・・」

ジストもコーネルも、その人物に驚く。
というのも、彼の容姿が見知った者にそっくりだったからだ。
それに気が付いたのか、メノウが2人に耳打ちする。

「気にすんなや。“あいつ”の名前は出すなよ」

ソファから下りた男は伸び伸びと腕を伸ばすと、自身の金髪を撫でる。
そうしてからようやく琥珀色の瞳を細めて気さくそうに笑いかけてきた。

「や、すまない。
少し昼寝をするつもりだっただけなんだが、すっかり眠り込んでしまったみたいでね。
俺はフェルド。まぁ、なんだ。ラリマーやメノウとはそれなりの付き合いでな。
本当は他の傭兵連中もここに出入りしているんだが、今日は広場の祭り騒ぎに乗じて皆出かけてる。
ボロい部屋で悪いが、よかったらゆっくりしていってくれ」

「ありがとう。
私はジスト、そしてこいつがコーネルだ。お言葉に甘えて邪魔させてもらおう」

それを聞いたフェルドは目を丸くする。

「驚いたなぁ。噂は本当だったのか!
王族の護衛なんて、一体どういう風の吹き回しだ? メノウ」

傷口の手当てをラリマーに任せつつ、メノウは適当に生返事をする。

「傭兵の巣窟か。
・・・反吐が出る」

「あぁっ、コーネルさん動かないで!」

包帯を巻くシリカに注意されてコーネルは黙る。



「さて。
次はサフィとア・・・いや、護衛の彼を助けなければな。
しかし、2人は一体どこへ・・・」

「それなんだけど」

ラリマーがテーブルの上に広げられていた地図を引っ張る。
地図の上にあったビンや本がガタガタッと音を立てて崩れ落ちたが彼女は気にしない。

「聖都の西にある要塞の付近をうろついてた傭兵仲間が、物々しい感じで何かを運んでいる皇族の関係者を見たって。
この時、あの可愛いお姫様が一緒に連れて行かれたかもしれないって」

「証拠は?」

メノウが聞くとラリマーはフフ、と笑う。

「女のカンってやつよ」



「おい、ジスト。
あの化粧女のカンとやらを信用するのか?」

小声でコーネルが尋ねる。
もちろん、とジストは頷いた。

「2人がどこへ消えたか、今の私達では掴む手段がない。
何やらキナ臭さも感じる。ここは彼女の情報に乗ってみたい。
君とて、リシアを嫁がせる先の潔白を証明したいのではないか?」

ぐ、とコーネルが唸る。
それにしても、とジストは空を見つめた。

「クロラは随分長い事臥せっていると聞いてはいたが・・・
何故だろう。何か違和感がある」

日が暮れ、夜が訪れる。
ジスト達はこの隠れ家で一夜を過ごす。

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