「やっぱり・・・!
だから私言ったじゃないですか・・・!
早く聖都から出ないと、って・・・」
人混みの中で蒼白な顔のシリカは隣で処刑台を見つめるラリマーに言う。
「このままじゃあの人殺されてしまいます・・・!
絶対おかしいですよ!辻褄が合わないじゃないですか!」
「わかってるわよ。
・・・妙にクサいのよねぇ・・・。シッポ掴めたら何か大変なモノが出てきそうなんだけど」
「どうにかして助けなきゃ!
噂だとメノウさん達も捕まったっていうじゃないですか!」
「あいつなら大丈夫よ。ケロっとした顔で脱獄してるでしょうから」
「証拠もないのにそんな・・・」
斜陽の光が女神像を照らす。
ざわめく民衆の前に、聖人の服を纏う老人が現れ、ゴホンと咳払いをして聖書を広げる。
「我らが聖なる宮殿に姑息にも忍び込み教皇暗殺を目論んだ罪深き者を、女神の御心のもと、此度、悔い改め魂を浄化し、天に還す―――」
長々と声を張り上げる聖人。
コーネルの首元に交差する槍が無慈悲に夕日を反射する。
既に傷だらけの彼は、不気味にも無表情だった。
「さぁ、最期の懺悔の時間だ。言い残す事はあるか?」
影が落ちるコーネルの横顔を周辺の者がジロジロと観察する。
ギリ、と歯が覗いた。
黙秘の姿勢を見せた彼に肩を竦め、聖人はついに執行者へ合図を送った。
控えていた兵が鉄鞭を持って近づいてくる。
「ラリマーさん・・・!」
シリカが泣きそうな顔でラリマーの腕を引っ張る。
と、そこへ後ろから駆けてくる足音が耳に入った。
「やめやめやめ~~!!
こんなの父さんが認めてないっすよ~~~!!!」
少年だ。
小柄な体裁だが両手をブンブン振って野次馬の注意をひく。
どこにでもいそうな雰囲気の彼だが、身に纏う衣服から若干の気品が見え隠れする。
「あれは・・・カナリー皇子じゃないか!」
「なんだなんだ?
一体、どういう事だ?」
民衆はざわめく。
「皆の者!静粛に!静粛に!!
・・・カナリー殿下!
また宮殿を抜け出して!」
聖人が声を張り上げたところで、音もなく人影が背後に迫った。
同時にどこからともなく強風が押し寄せる。
ゴオッ!と一瞬の風が周辺の者達をあおり、視界を奪った。
「ら、ラリマーさん!
あれは・・・!」
強風の中でシリカが見たもの。
フフン、と得意げに鼻を鳴らすラリマーの目には見慣れた人物が映っていた。
突然の強風に体勢を崩した槍兵を押しのけ、“彼”はあっさりとコーネルを抱えて石台から下りる。風がやんだ瞬間には、すでに石台の上に祀り上げられた人物が忽然と消えていた。
「今のは一体?!
お、おい、罪人はどこへ行った?!」
オロオロとうろたえる滑稽な姿を見た民衆がどっと笑う。
その反応が気に食わなかったのか、聖人は怒りに任せて地団駄を踏んで聖書を掲げて見せた。
「何が可笑しい!!
この神聖な場を穢すでない!!」
ラリマーはさぞ面白そうにクスクスと笑うと、シリカの背を押す。
「さ、行くわよ。
匿ってやらなきゃね!」
-93-
≪Back
|
Next≫
[Top]
Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved