夜明け近く。
聖都の中央広場に1人の影があった。
冷たい夜風が金の髪を撫でる。
彼は肌寒さも感じず、ただ静かに広場を見つめていた。
「アンバーさん・・・?」
静まり返った広場では、サフィの小さな声もすぐにアンバーの耳に届いた。
「サフィ?
どうしたの、こんな時間に」
「いつもより早く目が覚めてしまったので・・・
朝のお祈りをしようと。女神様へのお祈りは日課ですから」
祈る仕草を見せてサフィは微笑む。
何をどうしたらここまで純粋な存在になれるのか。アンバーにはまったくわからない。
「アンバーさんこそ、どうされたんですか・・・?
広場なんて見つめて」
「うん、ちょっとね。
・・・俺の、“最期の場所”だったからね、ここは」
ドキ、と心臓が跳ねる。
夜風が押しのけた金髪の下から、琥珀色の静かな瞳が覗いた。
アンバーとサフィは並んで広場を見つめる。
人々が集う場所にしては、なんとも殺風景なところだった。
中央の女神像はどこか彼方を見つめている。慈悲のない石の塊の前には、妙に空間があった。
その部分に目をやり、アンバーは尋ねる。
「サフィは、ここで行われる“救済”の儀式って知ってる?」
「はい。実際に見た事はないのですが・・・
昔、教会の人に伺ったお話では、“罪を背負った者を女神が救う儀式”・・・とか・・・」
「確かに、俺も昔聞いた話だとそうだった。
・・・でも実際は違うんだよ」
「違う?」
「俺も体験したんだ。その儀式」
興味深そうに見上げてきた瑠璃色の瞳。
そこに映った自分が、まるで毒の塊のように、アンバーには見えていた。
「体験談なんて、まず聞けない話だろうな。
サフィは興味ある?」
「あります!
心だけは、私は女神様に仕える者ですから・・・」
「そう。じゃあ教えてあげるよ」
アンバーは女神像の前を指差す。
「儀式の時、あそこには石台が現れる。そして民衆が集まってくる。
罪人が石台に立たされて、そいつに応じた罰が下される」
サフィの息が止まりそうになった。
「それ、って・・・」
「そう。救済の儀式と耳触りのいい言葉にしているけど、実際は公開処刑なんだよ。
俺はあそこで磔にされた。神様なんてものはどこにもいないんだって叫んでやったけど、相変わらず目が覚めないみたいだね、ここの人達は」
フラフラとよろめいて後退したサフィは、涙で瞳を潤ませた。
「たぶん、この前出た暗殺者っていうのも、見つかったら俺と同じ目に合うんだろうな。
俺と同じだ。どんな奴か知らないけど、少し同情する」
「アンバーさん・・・!」
「ごめんごめん、泣かせるつもりはなかったんだよ!
やっぱり話さなければよかったね・・・」
慰めようとアンバーが手を伸ばした時、宿の方から怒鳴り声が聞こえた。
「ふざけるなッ!!!俺が教皇を殺そうとしただと?!
そんな事知るかッ!!!」
コーネルの声だ。
「アンバーさん、今の・・・」
「なんかイヤな予感がする。
戻ろう、サフィ!」
「は、はい!」
アンバーとサフィは走って宿へ向かう。
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