再会早々過度なスキンシップを求めてくるその女性。
棒立ちのメノウに猫のように擦りついて離れない。
過激な光景に眩暈を起こしたコーネルは傍で柱に寄りかかって背を向けているし、サフィは直視できないのか赤面してジストの後ろに隠れてしまう。
「なぁ、リマ。今日は連れがおるねん。
ちぃと控えてくれんか」
「何よぉ、ケチ。
それにしても珍しいわねぇ。一匹狼のあんたがこんな大勢と一緒なんて」
まぁ座りなさいよ、と彼女は席へ促す。
「ラリマーさん。やっぱり、昨日より警備が強くなってます。
手短に済ませないと、今度はここから出られなくなっちゃうかも・・・」
シリカが警告する。その足元で、酒場のマスターに魚を貰ったサードが尻尾をわさわさと振りながらかぶりついている。
しかしラリマーはさもどうでもよさげにふぅんと生返事をすると、グラスを傾けた。
「あんたが私を頼ってくるのが里帰りの時だけって、なーんかフクザツね~。
今回もそうなんでしょ?」
「いや。今回は黒の国へ行く」
噴き出しそうになった酒を堪えてラリマーは大きな目を更に大きくした。
「あんな物騒なトコに何しに行くのよお!
あんた生き急ぎすぎ!!」
「仕事やねん。コイツを連れていかなあかんくて」
メノウが親指で差したのはジストだ。
「へぇ。この子が例の・・・」
彼女はジストを品定めするように見つめ、そしてニヤニヤと笑う。
「まぁ、いいわ。あんたの危なっかしい仕事っぷりは今に始まったことじゃないしね。
さぁ、それじゃあ選んでちょうだい。どいつの名前が欲しい?」
ラリマーは紙束を差し出す。ジストがそれを覗き込むと、ビッシリと人名が書き込まれていたのだった。
「これは・・・全部男の名前か」
ジストの独り言にラリマーはにこやかに頷く。
「そいつら全員私と寝た奴らよ。
あぁ、こいつなんかオススメ。テクも器も十二分だったわ。
あー、こいつはダメね。まるで小枝みたいな・・・」
「別にそんなんどうでもえぇねん」
冷静に切り返しているが、この2人のやり取りについていけない者達は泡を吹きそうな顔をしている。
「・・・ん?
あんさん、こいつ知っとる?」
急に話を振られ、引きつった顔をしていたコーネルが仕方なく紙束を覗き込む。
そしてメノウが指差す名前を認識した途端、顔を覆って俯いてしまった。
「・・・叔父上だ・・・」
あら、とラリマーは面白そうに笑った。
適当に選んだ名前が書きこまれた書類を受け取り、メノウは金を払った。
「ホントに用件だけなのね。
たまには語り明かさない?久しぶりじゃない」
「も、もう!ラリマーさん!駄目ですってば!」
「シリカは真面目すぎるの~。大丈夫よ一晩くらい」
ラリマーの腕を揺すって止めようとするシリカ。
眺めていたジストはおもむろにメノウに目をやった。
「付き合ってやったらどうだ?メノウ」
「あかんて。時間なくなる」
「たまには息抜きも必要だぞ!
せっかく麗しい女性の誘いがあるのだから、受けるのが紳士というものだ」
「あのなぁ・・・」
「ジストがいいって言ってるんだから、ちょっと遊んで来たら?
俺達、適当にその辺で宿とるからさ」
周りにここまで言われてしまっては引っ込めない。
渋々頷いたメノウを見て、ラリマーは祭りのように盛り上がった。
見た目は女性らしい女性である彼女だが、どこか無邪気さを忘れていないらしい。
もしかしたらこの魅力に抗えずに多くの男が轟沈していったのかもしれない。
ともあれ、一行は聖都で一晩過ごす事となった。
ジスト達は酒場から引き揚げ、シリカも気を利かせて席を外す。
残ったラリマーとメノウは向き合う形で席に座った。
「・・・それで。どうなの?
仕事の方は」
メノウの前にあるグラスに酒を注ぎながらラリマーが尋ねる。
「どうもこうも。一銭にもならん気がしてしゃーないわ」
「えぇ? だったら早くトンズラしちゃえばいいのに。
わりに合わないじゃない、王族の護衛なのに報酬がないなんて。
ましてや、金に煩いあんたがさ」
「なんやろね」
煙草を燻らせて彼は椅子に背を預ける。
「・・・危なっかしくて見てられんのよ」
「珍しい。あんたの“仕事”って、全部が全部“あの子”のためなんじゃないの?」
「あぁ。
・・・油売ってる暇はないんやけどね・・・」
天井を見つめたまま無言になる彼。
話題探しに自らの髪の毛先を弄っていたラリマーはふと先程の一行を思い出す。
「ねぇ。あの金髪のお兄さん・・・
どっかで見た事ある気がするんだけど」
「・・・お前もそう思うか」
「名前はなんていうの?」
「・・・アンバー。本名かは知らん」
「ねぇ・・・それって・・・」
「死んだはずが実は生きとった。厳密には生きてへんらしいがな。
・・・“あいつ”が知ったら、どんな顔すんねやろ」
日が傾きはじめ、酒場の出入りが激しくなる。
雑然とした喧騒の中、旧知の2人は深夜までそこにいた。
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