ここアルマツィア地方は険しい地形だ。
岩肌が無骨にゴツゴツと突出し、その上に白い雪が降り積もっている。
それは国の中心である聖都アルマツィアも同じで、断崖絶壁の上に荘厳な建造物が鎮座している。
“正の女神”を崇め奉る宗教の中心地である聖都は、礼拝に来た信者すら厳しく出迎える。
ましてや、信者でも何でもない一般人が立ち入るのも厳しいものだ。
そんな聖都が、いつにも増してより堅牢な警戒をしいている。
分厚い灰色の壁が立てられ、大きな門は閉ざされている。傍には多数の兵士が立っており、猫の子一匹通さない勢いだ。
その姿はさながら要塞ともいえ、いくら久方ぶりに訪れたとはいえメノウですら呆ける程度である。
「なんだこりゃ」
またもアンバーは見慣れない聖都の姿にぽかんとする。
「おい、アンバー。
お前この辺詳しいんやったな。いつからこうなった?」
「そんな・・・ごく最近までこんなんじゃなかったよ。
なんか物騒だなぁ。ほら、あそこなんて」
アンバーが指を差した先。石壁に空いた穴から砲台のようなものが見えた。
「気味が悪い。皇族は何をしているんだ?
リシアからもこんな話は聞いていないぞ」
コーネルはぼやく。
そう、彼の姉リシアは、このアルマツィア地方を統べる皇族の皇子と婚姻関係にあるのだ。
いくら政略的な契りとはいえ、聖都の異常な厳戒態勢の理由を知らされていない事に違和感がある。
「で、この聖都にいる知り合いに会うのだったか、メノウ?」
ジストが尋ねると、メノウはそうだと頷きながらもため息を吐く。
「無理やろ・・・こんな連中突っ切って中に入るなんざ」
「おい、コーネル。君と私の権力でどうにかならないだろうか?」
ジストは提案するが、コーネルは首を振る。
「戯け。考えても見ろ。お前は亡国の王子。今や王子と名乗る方が怪しい状況だ。
かくいう俺とて、リシアの弟ではあるが、我々オリゾンテ家は皇族に頭が上がらない。
そもそも、リシアの政略婚でさえ奇跡のようなものなのに・・・」
手詰まりだ。
「あの、メノウさん。聖都で会う方って、どんな方なのですか?
もし高名な方だったら、ひょっとして事情を話せば・・・」
今度はサフィが尋ねる。しかし。
「ある意味高名やな。傭兵界隈での話やけど」
傭兵相手では何の理由にもならない。
「君の知り合いの傭兵か?
ここに立ち寄る詳しい理由をまだ聞いていなかったが・・・」
ジストが問う。
「赤の国へ渡るには、そいつの手を借りるのが常でな。
・・・まぁ、なんてーか、あの国に入る上でワイの正体バラしたらあかんのや。
しかしあそこの関所を通るにゃ、ある程度の証明がいる」
「メノウさんこそお尋ね者なんじゃないの~?」
ジロリと威圧の視線を向けられてアンバーは慌てて顔を逸らす。
「そうか。別の傭兵に名義を借りるわけだな。
さすがは傭兵だ。姑息な真似しやがって」
「ほんならあんさんの名義貸してや」
「なんだと!どの口が・・・」
「冗談やわ」
立ち往生だというのに呑気なものだ。
手の施しようがなく立ち尽くしていると、遠くで犬が吠える声がした。
続けて、おーいと声がする。
周辺にはジスト達以外には兵士しかいない。
何となく声の方に目をやると、比較的兵士の手が薄い壁の傍で白い犬を連れた少女がぴょんぴょん跳ねて存在を主張していた。
「あれは・・・」
「彼女は?
メノウの知り合いとやらか?」
「会う相手とはちゃうねんけど、顔は知っとるな」
兵士の目を盗み、一行は少女の元へ向かう。
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